連作短編
□まるでメロドラマのような
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夫が死んだ。結婚式からまだひと月も経っていないというのに。
あたしはただ、黒い服を身に纏って呆然としていた。
葬儀を終えた日の夕方、
「みゆきさん、ちょっと…」
お義母さまに呼ばれた。
「今後の事なんだけどね。あなたは実家に帰ってはどうかと思うのよ。幸い、子供もいない事だし」
榊原の家から出ろと仰るの?
「お義母さま。実はあたし…お腹に赤ちゃんが……」
「まあ、本当なの?」
「ええ。3ヶ月になります」
お義母さまは、言葉に詰まる。
そうよね。結婚式の前に妊娠していたなんて。しかもお義母さまには報告も相談もしていないんだもの。
「まあ、なんてふしだらな…。あの子は、和宏は知っていたの?」
「ええ。もちろんです。和宏さんは、お腹が目立たないうちに式を挙げようって、奔走してくれました」
お義母さまの美しい顔が歪む。
「……認めませんよ。そんな、誰のとも知れない子供なんて」
声が怒りに震えているのが判る。
「お義母…」
伸ばしかけた手を、ぴしゃり跳ね退けられた。
「馴れ馴れしく呼ばないで頂戴。汚らわしい」
まるで、汚い物を見るかのような目で私を見る。
私はお義母さまからじりじりと後退ると、そのまま自室に駆け戻った。
(和宏さん…どうして死んでしまったの?)
泣いている場合じゃない。私には、守るべきこの子がいるのだ。
私は、お腹をそっと撫でながら、これからの事を思った。
もう、ここには居られない。
私は榊原の家を出る決意をした。お腹の赤ちゃんを守る為に。
つづく