逃
□秘めた思い
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弥生の季節
まだ肌寒さが残る正午のこと
めったに人が立ち入らないはずの屋上にたどり着く
鍵が開いている
やはりいるんだ…
不思議なくらい自分が笑顔なのに気がつく
けして俺たちは会おうと約束しているわけでもない
ただあいつはここに寝にくるだけなんだ
梯子を登り終わる寸前にある声が聞こえる
「はぁー…」
いつものように墨村から吐き出される大きなため息
どうせお隣の雪村に何かを言われたのだろう
「…お前…俺が何に悩んでるか気になんないの?」
「別に」
「…ちぇっ」
墨村は少しだけ動いたあと
「俺は寝るから話しかけるなよ」
と言い放ち数秒後には小さな寝息をたてはじめた
何で気づかないんだよ
お前のことこんなに好きなのにさ
ばーぁか
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