逃
□プール
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俺はプールに入れない
夜の仕事での体中の傷跡が他の人から見たら家での暴力にしか見えないだろうから
「墨村ー
走るぞー!!」
田端に呼ばれる
今日の見学者に対してのお仕置きは酷いものだった
プールに入らない者は体育館50周って…
聞いたことねぇよ
しかも今日に限ってほとんど昼寝もできてなくて
(黒須先生に怒られたし…)
普通にしててもフラフラだった
「ぁ゙ー…!!」
変な声を上げながら20周ぐらいは頑張れた
しかし
グラリと世界が歪み意識が暗い闇のそこに落ちていく
微かに誰かに呼ばれた気がした
走っているクラスがいやに騒がしい
確か墨村のクラスだったな…
と思いつつバレーをする
同じ体育館でもプールに入るか入らないかで体育の内容が変わる
俺のクラスは今日はバレー
墨村のクラスはプール
次の体育では逆になるのだ
チラリと目を向ける
と
そこには墨村が気絶しているのか、倒れていて周りの男に囲まれて…
俺は知らず知らずのうちに走り出していた
周りの男どもをはねのけあいつの傍に跪く
「墨村…?」
滅多に人に触らない俺が墨村の柔らかな頬に触れていた
あれだけ走っていたのに汗はあまりかいておらず、荒々しい息づかいだけが俺の耳に届いていた
「…先生…こいつ保健室に連れて行きます」
「そうか
じゃぁクラスと番号言え」
…暖かい何かが俺の手を握ってる
そんなことをぼんやり考えた
まだ眠り足りないと訴える瞼を無理矢理開いて、世界を見る
そこで手を握ってくれていたのは志々尾だったわけで
自分でも驚くほど弱々しげな声で名前を呟く
「…しし…お…?」
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