BROTHERS LONG

□Mon soleil.
1ページ/4ページ


気持ちが良いくらいの天気に恵まれた、陽出高校文化祭


高校は仕事で何度か来たことがあるけど、プライベートで来たのは初めて

役者以外の人で溢れ返る校内に驚きつつ、僕は風斗くんと待ち合わせをしている教室へと向かう


それにしても、人が多いなぁ


普段人混みの中に入るだなんて自殺行為しないから、人の多さに頭がクラクラしてくる

だけど人を隠すにはやっぱり人の中

変装はしているけど、まだボクの正体はバレていない


アイドルに感心の強い女子高生達の前でバレたらって考えると…怖っ



出来るだけ帽子を深く被り、目的地に急いで…「ねえ、君!」


『は、はいっ?』


肩に手を置かれて呼び止められた


「ウチの喫茶店寄ってかない?可愛いお姉さんいっぱいいるからさ」


振り返れば、にこにことウエイトレスの格好をしている男子学生


「中学生にも苦しくない金額設定だし、今フリーの女の子も多いから年上の彼女が出来ちゃったりするかもよ〜」

『あ…いや、ボク興味ないんで』

「えっ!もしかしてアッチ系?」


あたふたとしていたら、近くから聞き慣れた声がした


風「あーっ、こんな所で捕まってた。どっち系でもいいけどさ、この子僕のツレだから返してもらうよ」

「まじかよ、朝日奈のツレって凄くね!?」


さらっと僕の腕を掴んで、歩き出す風斗くん


もしかして芸能人だったりすんの!?なんて、次第に遠くなる彼の声をよそに、ボクらは人気のない屋上へと移動した


風「ここまで来れば大丈夫かな」


途中から走ってたから気が付かなかったけど、息を整えて風斗くんを見れば風変わりな格好が目に飛び込んで来た



『その格好…』

風「あぁ、この格好?ウチの出し物がホラーハウスだからさ」

『へぇ、バンパイア?』

風「そっ、茉矢を食べちゃうバンパイア」

『…バンパイアは血を吸うだけで、食べないよ』

風「へぇ、よく知ってるね。でもさ、それは普通の吸血鬼であって僕は違う」


ぐいっと顔を近づけられて、吐息が顔にかかる距離でそう言われる


風「茉矢って、本当に美味しそうだよね」



『っ…風斗くんなら食べそうだよね。むしゃむしゃって』

風「えーっ。そんなグロい方じゃなくてさ…まぁ、いいか」


少し期待外れだったかの様な表情を浮かべた後、風斗くんは持っていた紙袋から長髪のカツラとメイドのドレスを取り出した


風「これ着て。そうすれば、ホラーハウス関連の学生と思われるだろうし、堂々と校内を一緒に歩けるから」

『ど、どうして女性もの?』

風「これしか予備がなかったんだよ。あ、ゾンビとかの方が良かった?」


本当は僕が調達したんだけどねって…えっ


風「ホラーハウスのコンセプトからして、旧屋敷のバンパイアとメイドは組み合わせ的にも生えるし!」

『ビジュアル…ね』

風「そっ。それに、女装すれば茉矢ってバレる可能性も低くなるんじゃないかなって」


上手く言いくるめられた気もするけど、なにより早く文化祭を見て回りたいから手早く空き教室で着替えを済ませ、この格好ならバレないであろうと屋台の立ち並ぶグラウンドへと移動した


風「それにしても、絶世の美女だよ」

『…ありがとう。とっても嬉しくない褒め言葉だね』


ロングのゆるふわパーマのかかったウィッグを靡かせ、ひらひらの膝丈スカートのメイド服を纏うボク


風「ふーん、僕の彼女にならない?」

『…来世で女の子に生まれたら考えてあげる』


こんなやり取りをしている間に、一体何人の人に写真を撮られただろうか

一応、学生内の暗黙ルールで風斗くんの学生生活においての写真撮影はNGらしい

だけど、今日は一般の人ももちろんいるワケでそのルールもあってないようなもの

風斗くん目的で文化祭へ来る一般人ももちろんいるだろう



朝倉風斗が歩いているだけでも目立つのに…


「あの女の子超可愛い!芸能人かな?」

「まさか風斗くんの彼女だったりしないよね!?」

「だったら堂々と連れてこないでしょ!でも、関係性が気になるー!!」


そんな女の子達の悲鳴をよそに


『ねぇ、あれ食べてみたい!!』


ボクが風斗くんのマントの裾を少し引っ張って、綿菓子と書かれた屋台を指さす


風「っ…その格好で可愛いことしないでよね。あーもう、何でも買ってあげる!」

『わーい!風斗くんかっこいい』


僕よりも断然収入いいくせにって、毒を吐きながらも嬉しそうな顔で綿菓子を買ってくれた


『綿菓子ってたまに食べると凄く美味しいよね』

風「へぇ、そうなんだ」


そう言って、風斗くんはふさっと綿の塊から少し綿をち切り、自分の口に運んだ


風「うっ、甘い…」

『そりゃね、砂糖だし』


これって、端から見ればカップル同様なんだろうな…


『ところでさ、堂々と公共の場で女の子と一緒いるところを晒しちゃってるけど…大丈夫なの?』

風「問題ないよ。手は打ってある」

『どういうこと?』

風「ヒミツ。だから、今は今を楽しもう。後で分かるから」


ボクは首を傾げたけど、風斗くんが大丈夫と言うのなら信じようと今を存分に楽しむことにした



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ