STORY

□深夜、独りにて
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「………」

耳に、外で鳴く梟の声が届いた。
宿の周りを囲む森、そのどこかにいるんだろうか。
夏の蝉まではいかないが、少し、五月蝿い。

「すー……」

でも、そんな声なんかどうでもいい。
八戒さえ起きなければ、それで。
「………」

目にすっかり馴染んだ暗闇。
日中、運転、子守りなどで疲れきってしまっていたのだろう。
ベットでぐっすりと眠る、八戒の姿。
少し、寒いのだろうか?
その肢体は、布団の中で丸まっている。

「八戒……」

名を呼ぶ。
でも、起きる気配はない。
ただ、目蓋が少し、動いた。
瞳が閉ざされ、あの綺麗な深緑の色が見えない。
見たい、でも起こすわけにはいかない。

「八戒……」

もう一度、呟く。
指で、目にかかる髪を払った。
ふと、視線が八戒の指へ動く。
男なのに、疑いたくなるほど細くて。
戦っているのに傷もなく。
女のような、手。
手を取れば、その感触も女のように柔らかい。

「………」

頬に、手を添えれば、手と同じ感触。
脳裏に浮かぶ、頬が緩んだあの笑顔。
あれはたまらない。
優しく、暖かく。
いくら望んでも、今まで与えられることのなかったもの。

「………」

嬉しかった、とてつもなく。
だから、こんな感情が生まれてしまったのかもしれない。


愛している
抱きたい


歪んだ感情と、醜い欲望。

感じたこともない狂おしさ。

「ごめんな………」

「んぅ………」

その唇に口付けを。
僅かな抵抗か、小さくこぼれる声。
押し付けになってしまったが、許してほしい。

「八戒………愛してる」

これが独白でなくなる日が来ることを、祈る。



END
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