STORY

□過去の鏡【T】
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「ちょっと待てぇぇぇぇ!」

回想に入ったものの、理由も、原因も何も見つかっていない。
捲簾は思い切りその戸惑いを叫んだ。
当然ながら、その声に天蓬はビクリと肩を震わせる。
じんわりと目に涙を滲ませながら、言う。

「けんれ、ボクのこと……キライ?だから、おこってるの?」

ポロポロと透明な雫が目から溢れ出し、最早被せただけの白衣に染みを残す。
この感情の豊かさは幼いが故か。

「あ〜!違う、違うから!泣きやめ、天蓬」

撫でようと手を頭に乗せれば、天蓬は再び体を震わせる。
つい捲簾が手を引っ込めれば、天蓬は譫言のように呟く。

「ごめ…なさい……ごめんなさい……ごほんよまないから…」

涙でぐしゃぐしゃになった顔を俯け、天蓬は静かに泣いた。
捲簾は依然として唖然としたまま思う。

この年頃の子は、もっとワガママではないのか?
もっと笑って、好き勝手に動いて、人を困らせて……。
これでは、執着と恐怖の2つしかない。
これが、俺の見たかった姿か?


……絶対、違う。

「こっちこい……天蓬」

怖がらせないよう手で招いて、手を差し伸べて、待つ。
長い時間をかけて顔を上げた天蓬を、今度はいきなり抱きしめた。

「ふえっ……!?」

途端に慌て、手足をばたつかせる天蓬。
こうされることに、人肌の温かさに慣れていないのか。

「怒ってねぇよ……お前……もう少し子供になれ」

「うゆ……」

意図がよく理解できてないのか、情けない声を出す天蓬。
甘えろと、言ってるんだ。

「本読んだっていい、ゴロゴロしたっていい、俺にじゃれついたっていい、あんまり……ガマンすんな」

「……はい………」

涙を溜めながらも笑う天蓬はまだぎこちなさが残っていたが、今はまだそれで良かった。
心から笑うこと、それが捲簾の中では重要だった。

まだ、戻らなくてもいい。
コイツが『子供』になるまでは。

そう心で呟く捲簾の目は、とても優しかった。

see you later...


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