蒼悲沈花

□第一話
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生きたくなかった。もう、生きていたくなかった。
死にたい。
死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい!
いつまでも続いていく、目を覚ますことのできない悪夢。
絶望なんてとっくのとっくに捨てた。
だって私は、悲劇のヒロインなんかじゃないもの。
もうこの中に残っているのは絶望なんて陳腐なものなんかじゃない。死に対する恋慕にも似た渇望と羨望だけ。
あぁ、死にたい。
腐った世の中で、私はもっと腐っている。もう元に戻ることはできない。
だから、私は要らない人間なのよね?
私は死んで消えた方が良い人間なのよね?
だったら貴女たちのお望み通り消えてあげる。
私は貴女たちが大っ嫌い。でもそれ以上に、私は私が大っ嫌いなの。
「ちょっ…なにやって……!!」
真っ赤にうっ血した太陽が私たちしかいない教室の中を照らす。古くなった血が染み付いたカッターの刃がヌラリと光る。
あぁ、もう赤い線は増やせない。
紫色と黒色と赤色が肌に所狭しと並んでいて、黄色人種特有のバター色が見えない。
何処ならば、増やせるかな。
私、痛いの。だからね、もっと赤色を増やさなきゃ。
「何処なら赤色は増やせる?」
私がジンジンと熱をもつ頬を持ち上げてニコリと笑うと、目の前の彼女たちは目を見開いてカチカチと歯を鳴らし始めた。
あぁ、なんだかもう…面倒だ。
私はもう、死にたい。
だって私はもう必要のない子。
だから、殴るのでしょう?
だから、蹴るのでしょう?
だから、私を罵倒するのでしょう?





「もう、疲れた」





さよなら、さよなら。
この美しく陳腐な世界よ、さよなら。
私を置いてくれた血の繋がりしかなかった家の皆さん、さよなら。
箱庭の世界でしか存在出来ない学校の皆さん、さよなら。
醜くて汚くて腐り果てた私、さよなら。
グッと、カッターを出来るだけ深く首筋に食い込ませる。
「さよなら、どうか気味が悪いくらいに美しく明るい未来を」
まるで何処かの小説で使われているような台詞を声にし、私はカッターを勢いよく引いた。
いつもより何倍も強い痛みと、何倍も多く流れていると感じる赤の量。
あぁ、痛い。
でも、これで私死ねるのね。
良かったわ。
これで誰かの心が痛い思いをしないですむ。
母様も父様も兄様も姉様も…私がいない方が良いものね?
私の自慢の、優秀な兄様方。
私がいる所為で評判が下がったら、申し訳ないから。
ねぇ、私いい子でしょう?
私、とってもいい子でしょう?
ごめんなさい、今まで恥知らずに生きてて。
ごめんなさい、生まれてきてしまって。
ようやく死んだよ。ようやく、私は私を終わらせたよ。
だから、どうか私を誉めて!



「私…いい子、でしょう……?」



あれ?どうしてなのかな。
目から水が零れていく。
そして私の意識はブラックアウトした。



第一話「少女の悪夢」
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