キミが導く

□act.01
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私の中から誰かが消えてしまってから、年月は無情にも流れていき2年が経った。
何時からだろうか、私が泣いて目覚めるようになったのは。
その原因が夢にあるのは確実だろう。
それなのに、目が覚めると全て忘れてしまい思い出す事が出来ない。
悲しさだけが、胸を締め付ける。


『貴方は…誰なの?』


あの日から、誰だか分からない人へ問い掛ける日々が続いていた。


『あ、いけない!百合子との待ち合わせに遅れる!!』


物思いに耽っていた永久は、ふと時計を見るともう出掛けないといけない時間になっていたのだ。
慌ただしく玄関へ向かうと、玄関に飾っているユキの写真を見る。
今まで、決してユキの写真を飾らなかった私だけど、こちらもあの日から飾り始めたのだ。


『行ってきます、ユキ』


写真に向かって声を掛けると、慌てて部屋を出る。





ーーー…

「あれから2年経ったけど、まだロー君の事思い出さないの?」
『全く思い出さない』
「例の指輪の事も?」


“指輪”とは、私が倒れていたという場所で大事そうに握り締めていたらしい。


『思い出さない。だけど、大事な物だっていうのは分かるよ』


青と黄の二つの指輪。
私はこの指輪を何処で手に入れたのだろうか。


「まあ、今日はそんな事も気にせず、楽しんじゃお!!」


今日訪れたのは、バブルリングをする白イルカの居る水族館。
昔はユキとよくここに来たな。と思い出している時だった。


『来た事があるから。ユキと一緒に。もう一度来たかったの。“  ”さんと一緒に』


ユキが死んでから来た記憶は無い。
だけど、誰かとここに来た記憶が脳裏を過る。
どうやら、私は誰かとここに来たようだ。


『私は、一体誰とここに来たんだろ』


思い出せそうで、思い出せない。
もどかしい気持ちが、胸を締め付ける。


「永久ちゃん、もう直ぐで白イルカの居る水槽だよ」
『マシロ!!』


白イルカと聞き、今まで思い悩んでいた表情が一変し、嬉々とした表情に変わる。
こちらに泳いで来るマシロを見て、永久は振り返る。


『“  ”さん、見て!』


するとそこには、誰だか分からないが私を楽しそうに見つめている人が居るように見えたのだ。


「ど、どうしたの!?永久ちゃん!!」


涙が流れ出したのは、その瞬間だった。


『どうしてだか分からないけど、兎に角涙が止まらない』


どうしよう。と涙を流しながらも困った表情で百合子に問い掛ける。


「と、兎に角、近くのソファーに座って落ち着こう!」
『それもそうだね』


誰が見ても落ち着かないといけないのは百合子に見えるだろう。


「大丈夫?落ち着いた?」
『大丈夫。悲しくて泣いていた訳じゃないから。ただ、振り返った時に誰かの姿が見えた気がしたの』


何故だか、涙が零れてきた。


『ごめんね、気を使わせて。せっかく遊びに来たのに』
「気にしないで!だって私、永久ちゃんが辛そうだから外に連れ出したんだよ!!」


ずっと、ロー君の事を思い出すきっかけを探してたでしょ?と困ったように言われてしまう。


「まあ、この水族館が当たりだったのは嬉しい誤算かな」
『ありがとう、百合子』
「いいよ、いいよ!お礼何て!!永久ちゃんが笑顔になってくれるだけで、十分に満足だから」


はい、休憩終わり。と笑顔で言う百合子に何だが可笑しくなって、何時の間にか笑って頷いていた。


「次はペンギンだって」
『ここの水族館にペンギン何て、居たっけ?』
「さあ?私ここの水族館に来るの初めてだからなあ」


申し訳なさそうに言う百合子にそれなら仕方ないと言おうとした時だった。



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