月が導く

□act.29
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何の為に護身術を習っていたのか分からない。
守られるだけの弱い私でいたくなかったから。


『………ん……』


目が覚めるとあの男は居なく、あの状況に似てるな。と覚醒しきっていない頭で考えていた。


『あの時と違うのは、一人で目が覚めたって事と、何日もここで過ごす訳じゃない事かな』


ずっと、あの日から時が止まって私は動けなかった。
だけど、今はあの時の弱い私じゃない。
守られてるだけの私はもういない。


『絶対に、逃げ出す』


足に繋がれている鎖だって、壊れない物ではない。
アイツが居ない間にどうにかして壊してみせる。


「よう、永久。囚われのお姫様は、もう終わりか」
『!!……ロー…さん?』


今から壊すぞ、と近くにあった椅子を振り上げた時だった。
後ろからいきなり声を掛けられた。
恐る恐る振り返ると、ニヒルに笑うローさんが刀を手にそこにいた。


『何で、ここが』
「藤原屋のお陰だ。アイツの部下にあの男を見張らせていたみたいだからな」


こうなるのではと、危惧していた為沙知絵さんは考えていたのだろう。


「逃げるんだろ」
『逃げますよ。殺されたって、私はアイツの側に居たくないから』


私は、私の力でここから抜け出す。
私は、前に進まなければいけないのだ。


『だから、』


椅子を降り下ろす。
何度も何度も降り下ろす。


『自分の力で頑張らないと』


脆くなった鎖を、永久は渾身の力で引っ張り、繋いでいた鎖を壊した。


『行きましょう』


さあ、と言わんばかりにローの手を引く永久に、少し待てと逆に永久の手を引き、永久の腰に腕を回す。


「クククッ、本当にいい女だな。……コイツはオレの女だ。貴様に渡すつもりはねえ」
『え?』


一体何を言っているのだろう。と振り返れば、歪んだ瞳でこちらを睨んでいる男がそこにいた。


『ひっ!!』


恐怖から永久はローの服をギュッと掴む。


「永久ちゃん、君は本当に魔性の女だね。あの男の次はコイツ…ねえ、俺をどれだけ怒らせるつもりだ!!」
「テメェがいい加減にしろ。コイツはお前のもんじゃねえ」


腰に回っている腕の力が増し、少しだけ恐怖が和らいだ。
だけど、恐怖はまだ去っていない。


「分かってないよ、分かってない。永久ちゃん、君には俺しかいないんだ。そうだろ」
『違う。私は……私には、沙知絵さんが居る。百合子が居る。祐希君が居る。今は、ローさんも居てくれる』


怖いのか、永久の声は震えている。
だけど、少しずつ震えはなくなる。


『私は、……貴方の側に居たくない』
「認めない、俺は認めない!そうだ、あの日のようにこの男を消そう」


そうだ、良い考えだ。と言わんばかりに歪んだ瞳でこちらを見てニヤリと笑んだ。



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