小説庫
□何かが変わる、その瞬間。
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帰り道に寄った公園で、敬太は見てはいけないものを見てしまった。
「ごめんなさい・・・」
夕暮れの公園はとても幻想的で、デートスポットとしても告白の場としても有名な場所だ。敬太には縁が無い場所でいつもは通らないので、夕暮れにまつわる噂を忘れていた。そのせいで、大変居心地の悪い雰囲気に紛れ込んでしまったのだ。せめてOKシーンならまだしも、何が面白くて男がフラれている現場を見なければならないのか。
「(タイミング悪ィ・・・)」
何となく罪悪感を感じていると、男のほうが勢いよく駆け出して公園を飛び出して行った。しかしまだ女のほうが残っているので、何も見ていなかったフリをして彼女の後ろを通り過ぎる。視界の隅にうつるのは、自分と同じ学校の制服だった。もしも知り合いだったらと思うと、ますます通りづらい。
敬太が素通りをしようとした瞬間。思わぬことにその女から声がかけられた。
「ケーちゃん・・・?」
「! キャンデ」
現場の一人はキャンデだった。
驚いたのは、それだけではなかった。フった側にしては泣きそうに歪んだ、幼馴染の顔。自分のせいで誰かを傷つけたことが、きっとこの上なく悲しいのだろう。
「・・・・・・」
何も言えずに黙っていると、キャンデがふと笑んだ。
「・・・帰ろ」
「・・・おぅ」
言ったわりに黙りこんだまま動かないキャンデに、秋の涼しげな風がふわりとふいた。長く伸ばされた髪が、うねるようになびく。いつもより大人びた表情を隠す、その栗色の髪。
ふと緩んだのか、キャンデの頬に堪えていた涙が一筋零れる。雫はきらめいて、暖かな橙の光に散っていった。
「・・・・・・」
いつものキャンデの強さからは想像できないような、あまりにもか細くて儚い様子に、敬太は胸が小さくうずいたのを感じた。
ふわり、ふわり。
―――何かが変わる、その瞬間。
END