短篇小話 3


□十年ひと昔
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初めてその懐ろに
掻い込まれたのはいつだった?
確か、そうそう。
敵の居残りがばらまいた
目潰しを食らってしまって、
不覚にも身動き取れなくなったことがあり。
視覚を奪われ、
途轍もなく不安な身を宥めようとしてのこと。
警戒心もあらわに、
気も立ってたのにも関わらず、
お願いですから大人しくいてくださいと
言い諭し、
懲りず怯じずでずっと傍らにいてくれた。
見えない不安を紛らわせるため、
他愛ない話をしながら、
ずっと手や肩へ触れててくれて。
それから…
何くれとなく構いつけてくれる彼なのが、
どうしてだろうか、
こちらからも嬉しくなった。
何でもこなす、器用で暖かい手。
甘い匂いは髪油の匂いだと教えてくれて、
気に入ったのなら
お揃いにしましょうねなんて、
髪を梳いてもくれて。
おでことおでこをこつんこと合わせ、
そうまでの間近から、
深々と瞳を覗き込まれた
なんていうのも初めてのこと。
表情乏しく、言葉足らずなこの自分を、
怖がりも疎みもせず。
衒いなく自身を晒して、
その尋へとくるみ込んでくれるなんて人、
そういえば今までには
一人だって居なかったから。


 ―― すっかりと気を許し、
    誰ぞの懐ろへと
    身を預けるだなんて


そんな無防備も極まりないことを、
この自分が人へと許すだなんて。
かつての朋輩が見たなら、
腰を抜かして驚いただろうな…。




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