■小劇場


□咎罪者(とがびと)の恋唄
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あんまり優しくしないで下さい。
歯を食いしばることで正気を保っていた箍が、
それは他愛なくも弾けてしまうから。
あんまり甘い言葉ばかり与えないで下さい。
それらがやがては手のひらから消え失せる
“夢”だと判るのがつらいから。
このままで安穏としていられる筈がないと、
夜陰の暗渠に理由(ワケ)もなく怯えれば、
暖かくくるみ込んで下さる懐ろが。
どうしてでしょうね、この頃は、
泣きたくなるほど恐ろしい…。


◇  ◇  ◇



自分は久蔵と違い、島田の支家でも分家でもないところの人間だ。
支家の人間だった両親が早くに離婚をし、
自分への親権を離さなかった母が早死にしたせいで、
母方の親族の間を厄介者としてたらい回しにされていた。
最後にいた家では虐待まがいの扱いさえ受けており、
勘兵衛の親御に助け出してもらわねば、
こうやって生きて此処にはいられなかったかも知れない。
だから、いろんな意味から、覚悟は出来てたつもりだった。



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