■千紫万紅 〜賞金稼ぎ篇 2


□あらまほし
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あれはいつのことだったろか。
まだまだ寒さも厳しいながら、
暦の上では春に入っていた頃合いのこと。
北の辺境、山野辺の寒村に、
それは巨大な人喰いヒグマが現れて。
それでなくとも
男衆は南の街へと出稼ぎに出払っており、
居残りは年寄りや女子供しか
いないという頼りなさ。
そんな住人たちの難儀を聞き、
湯治場巡りの通り道でもあるしと
立ち寄って、
着いたその日に見事討ち取ったは、
元は軍人だったという、
老若二人のお侍様。
特に売り出している訳でもないのに
その名が広まりつつあった、
蓬髪の壮年殿と金髪痩躯の若武者という、
賞金稼ぎ“褐白金紅”のご両人。

 『そんな通り名まで用意したのは、
  お主か?』
 『おやおや、そんな滅相もないvv』

まだその当時は、
若い連れ合いの傷を癒すことの方が主目的。
だってのに、様々な成敗嘆願の文や書状が、
転々と移動する旅先、
ともすれば日替わりとなる
彼らの居場所へ向けて、
異様なくらいに正確に届くは
理屈がおかしいと。
そこいらを正しにと、
二人が訪のうたのが
虹雅渓というにぎやかな街で。
人生の転機とも言えるほどもの
鮮烈な出会いや再会を、
彼らへ齎した一大事件の、
舞台となった荒野の街の底。
歓楽街“癒しの里”の名うての大店、
料亭“蛍屋”に
お初の里帰りをした折の
ことではなかったか。





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