■寵猫抄 2

□お話しましょvv
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もう九月も終わりなんだねぇと、
仔猫の髪のお手入れをしながら、
七郎次がしみじみと口にした。
それを聞いてのことだろう、
お膝に乗っけた小さな仔猫、
みゅうぅ?と
小首を傾げて
肩越しにお声の主を振り仰ぐ。

 「うん。
  何だか
  あっと言う間だったなぁって
  思って。」

学校に通ってる人がいる訳じゃなし、
九月だからどうだって事もない
お家ではあるのだけれど。
衣替えとか中秋の名月とか、
十月の到来の方がよっぽどに、
印象深いことなんだろけれど。

 「いつまでも学生気分が
  抜けてないって
  ことなんだろかねぇ。」

会社に勤めている訳じゃあないからか、
学生さんのような感覚で
季節を把握している自分なんだなぁと、
愛しの坊やの綺麗な金の髪や、
小さくて愛らしいおつむ、
宝物のように丁寧に扱いながら、
そんな感慨に
耽っておいでのお兄さんは、
だがだが、
売れっ子作家の島田せんせい専属、
敏腕秘書殿なのであり。
そろそろ年末進行がどうのとかいう、
出版界ならではな、
気の早いお話へと
意識を切り替えねばならぬ
頃合いでもあったりし。
本は、単行本も雑誌も同様に、
印刷という段階を経ることで、
形になっての店頭に並ぶ商品なので、
編集後の印刷や配送という
手間を見越しての逆算をして、
企画や執筆の
締め切りを決めるわけで。
ところが盆と正月は、
出版社にどれほど人が居たところで、
印刷屋さんが
お休みになってしまうと
それでもう、
売り出しへとつながる作業は
ストップ。
休み明けまでは
在庫で勝負という運びとなる。
生鮮食品だって同じことで、
なのに中央市場や卸のお店は休みな中、
正月早々空いてる店が増えたのは、
自社倉庫に
商品を充填して構えているからで…って、
いや今はそっちのお話は
ともかくとして。
そんな訳で、
盆明けと正月号の締め切りは、
心持ち早まっての
あれこれ重なる強硬進行となるのが
セオリーなのが出版界。
原稿のやり取りや情報伝達、
印刷技術そのものが
どんなに進んでも、
まだまだ人の手で
こなさにゃならない部分も多く、
作家の皆様も編集関係の方々も、
秋の頃からもう、
年末の話に入らにゃならぬ
もんだとか。

 “…といってもねぇ。”

毎年恒例の話だし、
それに島田先生は
締め切りギリギリまでかかるという、
スリリングな仕事っぷりでは
ないお人なので。
大変だ〜っと
目の色変えた覚えも
あんまりないんだけどもねぇと。
まさしく お人形さんのように、
小さな小さな肩や細いうなじへかかる、
絹糸のような金絲を
梳いてやりつつ話しかければ、

 「にゃあにゃvv」

通じているやらいないやら、
仔猫さんの返すお返事が、
何とも堂に入った
トーンのそれだったものだから。

 「〜〜〜〜。////////」

まあまあまあまあ、
なんておしゃまなお返事を
する子なんだろか。
ちょみっと肩越しに振り向きかけての、
かっくりこと傾けた
お顔の角度もそれらしく。
いかにも
“大人の真似っこしてみたのvv”
という愛らしさ。
茶目っけとそれから、
小さきものの可憐さとが相俟っての、
何とも言えぬ、ほろ甘さを醸すのが、

 “七郎次には
  母性をくすぐられて
  堪らぬのだろうな。”

支えてやらねばと
つい手を出させる可憐さと、
そうやって受け止めた身から伝わる、
何とも柔らかで ささやかな、
小ささや頼りなさでの
胸を衝くよな実感と。
それでなくとも繊細で、
感じ入りやすい性分な
七郎次であるだけに。
うるるんと
潤みの強いお目々で見つめられ、
小さなお手々がちょんと、
餅菓子のようなふわふかなやわらかさで、
こちらの指先に掴まるように
触れてきたりしたらもう。
ああもう、ああもうもうと、
身を揉みよじり、してまでも、
感に堪えたる様子を
見せてしまうらしくって。


 『これもまた、
  まだまだ先の話題かもですが、
  島田さんチの流行語大賞は、
  間違いなく
  “惚れてまうやろ〜〜”に
  決定ですな。』


編集員のお兄さんが、
そんな風な言いようをしていたの、
ふと思い出してしまった壮年殿。
顎へとたくわえたお髭を、
骨太な大ぶりの手で撫でつつも、
窓辺の陽だまりの優しい風景へ、
声を落として
微苦笑(わら)っておれば、

 「あ、勘兵衛様っ。」

今も久蔵と
話しておったのですが…、と。
こちらの気配に気づいてだろう、
ひょいと振り返った
そりゃあ楽しそうなお顔の恋女房殿と。
一丁前にも
小さめのケープをつけられての
ブラッシング、
愛らしくも大人しく
されるままになっていた王子様まで、
軽やかなお声で“にぃみゃんvv”と、
ご挨拶くださるお出迎え。
このご一家ならではな団欒へ加わるべく、
微妙な苦笑を噛みしめつつも、
歩みを進める
勘兵衛様だったりしたそうです。


  ……そりゃまあねぇ。
  こちら様はこちら様で、
  ほんの直前まで、
  意識を絞り込んでの鋭い集中を保ち。
  武士(もののふ)の魂の凌ぎ合いという、
  崇高なる精神世界へも
  接した部分の大いにありきな、
  それはそれは緊迫した
  一騎打ちの場面を、
  数時間かかって したためてらした、
  そこからおいでの
  身だってのに、ねぇ?(くすすvv)






  〜どっとはらい〜

  09.09.29.


書いた当日は招き猫の日で、
大天使ガブリエルの日でもありまして。
がぶり寄り?と、
誰もが言いそうな
おやじギャグはともかくとして(笑)
猫といえば…と、
何か書きたくなってのお話ですんで、
大した中身はなくってすいません。
相変わらずに
七郎次さんはキュウの愛らしさに
骨抜きな様子ですし、
そんな恋女房へと、
おっさま…もとえ、
島田せんせえもまた
骨抜きなご様子でございます。
1年経てば人間の子供でも
もっと育ってそうなもんですが、
子育て経験のないイツフタ夫婦なので、
小さいままのキュウ猫だってこと、
あんまり不審には
思ってないらしいです。(笑)



 

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