■寵猫抄 2

□午後のサスペンス
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何だか変梃りんだった夏だったせいか、
九月に入って
たった半月しか
経ってないにもかかわらず、
やけに遠くなったような間合いへ
ひょこっと、
秋の連休
“シルバーウィーク”というのが、
今年はいきなり発生し。
高速道路料金の割引とか、
エコカー減税とかの余波、
秋の行楽は車なんて、
出掛けるお方がたも多かろう。
それ以外へも、
もはや随分遠い話になってますが
“交付金”というのの
支給があったのを反映させた、
お得な旅行プランというのも
まだまだ探せばあるせいか。
バスやJRにての旅行へという
お歴々も多かろう。
今年は少し遅い紅葉、
それでも爽やかな好天の下、
のんびり羽根のばしをするには
絶好の連休でもあるようで。

 「……と、
  皆さんが意を揃えて
  おいででしょうしねぇ。」

そういう時期だったんだよという
話題を求めているのなら、
出先での出会いとやらの
機会も増えての、
話の種もたくさん
拾えることでしょが。
特にその頃合いでなければ
時間が取れない身じゃあないのなら、
何もそんな時期へと
わざわざ参戦するこたない。
ネット検索などで
“穴場”も根こそぎ
人目へさらされている昨今なだけに、
日程を少しズラすだけで、
随分と静かに過ごせるというなら、
我々はもう少し秋が深まってから
運びましょうよと。
シルバーウィーク当日は、
大人しく自宅で過ごすことと相成った、
こちら、
島田先生ご一家の
初秋のご予定だったりし。

 『ああ、
  だったらDVD鑑賞なんてのは
  どうですか?』

こっちは
“シルバーウィーク”目当て
というより、
例年通りに
“秋の夜長”を目当てに
という感じで、
海外ドラマや懐かしシリーズものの
ボックスがどかどか出てますし、と。
そういった作品のカタログ
たんと揃えてくれたのが、
個人的な知己でもある
出版社の編集員、
林田くんという担当さんで。
カタログのみに収まらず、
自社の関連会社が
製作にかかわったのも何作か、
まま観てみて下さいなと
進呈して下さって。

 『あ、これって
  昔凄っごく人気があった
  幼児番組ですよ。』

 『ほほぉ。』

 『意外なものが
  DVDになってるんですねぇ。』

 『というか、
  なんでお主が
  この幼児番組を知っておる。』

放映当時は学生だったろにと、
ケースの裏面の説明書きを読んで、
怪訝そうな声を出す勘兵衛へ。
七郎次は屈託なくも、
ほわんと笑って見せるばかり。

 『ああ何、
  熱中して観ていた訳じゃあ
  ありませんて。』

朝の支度の傍らに、
時計代わりにテレビをつけていて、
定時のニュースが終わってから
チャンネルを変えて、
最後の体操が始まる時間帯に
家を出ると、
ちょうどタイミングのいい
バスに乗れたのですよ。
そんな風にけろりと
応じてのける七郎次は、
生え抜きのテレビ世代だが、

 『時計代わり…。』

どうやら勘兵衛の側は、
必要でもないのに
テレビを点けておくというのに、
今ひとつ馴染みがない世代なようで。
こんな些細なところへも、
世代差が一応は出る二人であるらしい。

 “…なんか
  直前のお話を
  引きずってませんか?”

あっはっは、
気にしちゃイヤンvv(笑)
そんなこんなと言いつつ、
広いリビングのテレビの前にて、
色々なタイトルを
あれこれ眺めている二人の傍では、

 「みゃ?」

テーブルの上だけでは収まらず、
周りのラグの上へまで
広げられてるDVDの、
薄いプラスチックやアクリルのケース。
お膝の周りに
散らばったそれらに囲まれて、
ちょこりと座った久蔵坊や。
彼には結構な大きさか、
そして、となると
まだ上手には掴めない仔猫様。
ふくふくとした小さなお手々で
ペシペシと叩いてみたり、
表紙に使われた写真に
わんこがいたの、
ちょいちょい・ツンツンと
小さな指で差して見せたり。
1枚へぺたりと手を伏せて、
それをラグの上で
すべらせるように擦りつけつつ回したら、
角へとこつこつ、
別のが当たって弾かれるのに
気づいてしまい。
赤い双眸、大きく見張ってから、
はうぅvvと
御機嫌なお声を上げて見せたり。

 「〜〜〜vv////」

 「うむ。
  愉しみようが随分と
  間違ってはおるがの。」

泣きそうともとれよう
困ったようなお顔のまんま、
口許へ拳を当てた
金髪美貌の恋女房殿から、
ほらほら勘兵衛様見て下さいなと、
シャツの袖を引かれる格好で
無言で促され。
そうかそうか、
久蔵もDVDは好きかと、
こちら様もまた、
精悍なお顔を微笑ましいと
ほころばせる御主様。
愉しみ方が
微妙に(?)ずれているとは
判っていながらも、
満足しておるなら
結果オーライと思う辺り、
そこは勘兵衛も
七郎次とさして変わらぬ感性で
おいでなようで。

 ……こんの親ばか夫婦が。(苦笑)

 「みゃ、にゃにゃっ!」

ひとしきり、
かちこつこんこん、
エアホッケーでも楽しむかのように、
DVDのケースを
フローリングの
広いリビングのあちこちへ、
飛ばして遊んでいた
小さな坊やだったが、

 「あ……。」

そんな中に、
覚えのあるタイトルを
見つけた七郎次。
やっぱり仔猫がコンッと、
斟酌なく弾き飛ばしたそれを、
すっと身を伸ばすと
素晴らしい反射ではっしと捕まえ。
傍らにおいでの御主へと
差し出して見せる。

 「勘兵衛様、これ。」
 「おや。」





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