■寵猫抄 2

□夏がゆく
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縫いぐるみのように、
はたまた、よく出来たお人形さんのように、
それはそれは愛くるしい風貌を
しちゃあいるけれど、
中身はやんちゃな坊やに違いなく。

 「…あ。これっ、久蔵っ!」
 「みゃっ!」

お待ちなさいと掛けられたお声を
ふっ切るように、
とたとたとた…と
板の間へ小さな足音立てながら、
リビングを駆けてゆく小さな存在。
家人には小さな坊やに見えているけど、
サイドボードのガラス扉や、掃き出し窓には、
そりゃあ小さな、
お手玉くらいのキャラメル色した綿毛玉が、
たったか駆けてる姿が映る。

 「久蔵っ。」
 「にゃぁあ。」

尻に火がつくとは正にこのことか。
振り向きもしないまま、
やなこったいとか、待てませんとか、
そんな調子を思わせるお声を返し。
戸口までを辿り着くと、
そのままちょろりと門口を曲がって、お廊下の外へ。
勢いよく飛び出していった影なれど。

 「……………にゃ?」

ほんの一拍も待たぬうち。
出てすぐにも方向転換をしたこと、
ありありと悟らせる間合いにて。
その同じ門口から、
小さな頭の端っこ、そろりと覗かせ、
恐る恐るに室内を伺うところが、
得も言われずの何とも子供っぽくて。
シチ、追っかけては来ないのかな?
こっち見てゆの?
その辺を見定めようとしてか、
よいちょとこっそり、
背伸びをしている小さな背中へ、

 「何をしておる。」
 「みゃあっ☆」

後ろが油断しまくりだったのへ
難無く近づき、
ひょいと掌の中へ掬い上げた勘兵衛が。
びっくりしているのをそのまんま、
リビングへと連れ戻してしまうので
幕となるのも、
これまた日常茶飯になりつつある、
こちらの母と子のドタバタは、

 「して、今日は何をしやった。」
 「いえ、紙くず用のごみ箱を
  蹴倒しただけで、
  大したことはないのですが。」

ペーパーモップを掛けてた傍ら、
その先へとじゃれようとしたの、
いけませんよといなした直後だったので。
ついのこととて“こら”という言いようが、
口を衝いて出たらしかったが。
わざとじゃないのは判っていたし、
お顔はさして尖ってもない古女房。
それよりも、
大きな勘兵衛の手の中へ、
ボールのように丸々と収まっている
小さな坊やの格好へ、
ついついくすすと吹き出している。
誂えた椅子ででもあるかのように、
幼児体型の丸ぁるい背中やお尻が、
あまりにすっぽりと嵌まっていて。
自分でもそれが心地いいのか、
それともそういう何か理屈でもあるものか。
ひくりとも もがくことのないままに、
抱えられたまんま、
神妙なお顔でいる坊やなのが妙に笑えて。

“そうそうvv”

この体勢になっている時は、
小さな背中がくりんと丸まり、
その前にて四肢が1つにまとまっている、
仔猫の姿で見るのもまた可愛くて。
怒ってなんかなかったおっ母様と
お顔を突き合わせ、
あれれぇ?なんて思うのか、
右へ左へ小さな頭を、
かっくりこっくり傾げて見せる。

 それからそれから。

頬に後れ毛でも掠めてくすぐったかったか、
小さなお顔をふるるっと震わせ。
やはり小さなお口を縦長に精一杯開いての、

 「にぁあん。」

何かしら訴えてでもいるかのように、
すこしばかり長く鳴くのが、また。
これでも大きめに
開いているらしきお口から、
ちらと覗く小粒な糸切り歯の先が、
あまりに小さく愛らしく……。

 「〜〜〜〜。//////」
 「判った、判った。」

はしたないとでも思うのか、
口許を手で覆って押さえ、
きゃああという
小娘のような萌え声上げるのを塞いだ
その代わり。
例えば こたびは
こちらのシャツのひじ辺り、
少しほど余ってた部分を
ぎゅうと掴んで来る七郎次へ。
そんなしたら久蔵を取り落としてしまうぞと、
困ったように苦笑を返す
勘兵衛様だったりするのも、
これまた いつものことであり。


  相変わらずなようでございます、
  こちらのお宅も。(苦笑)







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