■寵猫抄 4

□豆まきは大騒ぎ♪
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この冬一番の冬将軍の到来と、
一月の末辺りから
あちこちで予告されたのは
伊達じゃあなくて。
豪雪地域では
二階家さえ埋まりそうなほども、
重たい雪がどっさりと降りしきり。

 「どこも雪下ろしや雪かきが
  大変だそうですよ。」

 「そうだろうな。」

お年寄りしかいないような、
文字通りの寒村が
多いところもあろうにと。
執筆のおりに掛けておいでの
メガネを少しほどずらし、
手元へ広げた
新聞を読んでいた勘兵衛が。
仔猫をお膝に乗っけ、
そちらさんは
テレビのニュースを見ていた
七郎次のお声で顔を上げ、
大型画面に映し出される
白銀の世界を、
ややもすると憂れうるように
双眸ひそめて眺めやる。

 「だがまあ、
  さすがは立春で。
  そろそろ一段落するらしいが。」

 「そうなんですか?
  それはよかった。」

都内でも一昨日までは
時折吹雪くほどの雪に
見舞われたが、
今日は陽も照っての、
屋内にいる分には暖かで。
そんな中で
くるんと
小さな肢体を丸めておいでの
黒猫さんは、
金髪のおっ母様の
温みと匂いがお好みか。
お台所仕事だの
お洗濯だのが片付いて、
コタツに戻って来ると。
それまでは勘兵衛のお膝を
久蔵ちゃんと
取り合いっこしていたものが、
あっさり見切っての
飛び降りてしまい、
にゃおうvvと
擦り寄ってゆく
切り替えの素早さよ。
うっかり動くと
振り落としてしまいそうな、
そうまで小さい仔猫さん。
お昼ご飯に
炊き立てご飯のしらす和えと、
マグロの佃煮を
ひとかけいただき。
それでお腹が
ぽんぽこりんになったものか、
七郎次の膝に乗っかって、
居場所が決まると
すぐにも目に糸を張ってしまい、
くうくうと
眠ってしまったようであり。

 「今日はいつにも増して
  眠そうですよね。」

勘兵衛の側の
お膝に陣取る先輩格、
キャラメル色の毛玉さんこと、
メインクーンの久蔵の方も。
壮年殿のお膝を
独り占めしたくての、
えいえいという
ちょっかいの手を
出し合っていたお相手、
クロがすんなり場を移ってしまうと、

 「………みゅう…。」

やはりやはり、
その小さな身を丸め、
ぽわぽわの毛玉のようになって、
大人しく
眠ってしまったようであり。

 「二人とも
  可愛いったら
  ないですよねぇ…vv」

丸くなってしまうと
どこが頭でどこが尻だかも
判りにくいクロちゃんも、
そのつややかな毛並みの端っこで
時折ゆらん・ぴょこたんと
お尻尾が揺れるのが
得も言われず可愛らしいし。

 「にぃみぃ…。」

よほど深く寝入ったものか、
勘兵衛のお膝で
大胆にもころんちょと
寝返りを打ったらしい久蔵の、
金髪の乗っかった頭が、
コタツの天板の向こうに
ちらりと見えた七郎次。

 「頭をぶつけやしませんか。」
 「うむ、大丈夫だ。」

何せ彼ら二人には、
仔猫の久蔵ちゃんが
5歳くらいの幼子に
見えているがため、
そんな狭いところで
コロンなんて転がったなら、
頭だの手足だのぶつけること
間違いなかろうにと
ついついひやりとしてしまう。
自分のお膝に注意しつつ、
ちょいと身を延ばして、
今日はお向かいに座した
勘兵衛の方を
見やった七郎次だったが。
よほどのこと
熟睡しているからだろう
薄く開いた口許や、
前髪が反っくり返ったそのまま
上へとこぼれ、
おでこが全開になっている
お顔の稚さへ、

 「〜〜〜〜〜〜〜〜。////////」
 「七郎次、
  クロが何事かと起きないか?」

撫で肩が震えているのは、
可愛い可愛いとの
身もだえのせいに他ならず。

 「だ、だって勘兵衛様。
  久蔵ったら、
  なんて可愛いのだかvv」

思えば、
勘兵衛との二人暮らしを
していた間は、
売れっ子小説家の
有能な秘書として、
常に きりりと…
若しくは余裕のあるお顔でいた
彼だったのに。

 “あれが、
  取り繕った背伸びだったとも
  思えぬが。”

今だって、
その仕事ぶりは
緻密にして行き届いているし、
出版社の編集さん以外にも、
家作を巡る
すったもんだの騒ぎを起こす
輩を相手に、
裁判所へ行っての
交渉も辞さぬとの
凛々しさも変わらぬ彼で。
それと同時に
優しく繊細な気心も
持ち合わせちゃあいたけれど、
それがこういう…
愛想たっぷりな方向のものへ
転じようとは。
さしもの勘兵衛とて
想いもよらなかった
運びであり。

 「昨夜は
  ずんとはしゃいで
  おりましたものね。」


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