ワケあり Extra 3

□屋根より高い…
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所謂“旧の暦の上で…”
どころか、
ひな祭りが過ぎ、
桜が待たれる四月になっても、
いつまでもいつまでも
寒を引きずっての、
なかなか油断のならない
春だったものが。
さすがにGWを前にしては
いつまでも
“ツンデレ”もないかと
思うのか。(誰が?)
何だか急に、
汗ばむほどの日和が
駆け足でやって来て。

 「ところによっては、
  夏日どころか
  真夏日くらいまで
  気温が上がってる
  そうですよ。」

 「ウチはモクレンの花が
  どっと散るものだから
  お掃除が大変で。」

 「そろそろ
  次のお花ですわね。」

 「ハナミズキとか。
  ツツジに大手鞠に。」

 「藤に馬酔木に。」

連休には各地の公園へ
シバザクラを見に行く人も
多いでしょうね。
弘前や北海道では
これからが桜ですってね。
○○様は
どちらへお出掛けですの?
私はスイスの叔母のところへ。
▽▽様は、香港ですって。
わあ、
お買い物が楽しめますわねvv

  ……などなどと。

話の背景というか
舞台というかが、
途中から 至極ナチュラルに
海外に移ってしまっても、
特に
不自然ではない地盤なのは、
今に始まったことでもなくて。
ただ、

 「今年は五月祭が
  火曜日開催になったので、
  後半のお天気を
  気にしなきゃあ
  いけませんわね。」

 「連休の真ん中なのは
  いつものことですが、
  今回は随分とまあ
  ド真ん中ですこと。」

妙なことへと
“感慨深いことよ”という
やりとりになるのが、
こちらの女学園ならでは
といいますか。
イギリスの風習に
端を発する
五月のお祭りが、
恒例の行事として
華々しく催される
伝統があるからで。
大地の女神に
今年の豊饒をお祈りするべく、
メイポールを
真ん中に取り囲み、
その頂上から延ばされた
リボンを手に手に、
フォークロアな衣装をまとい
輪になって踊ったり
…はしませんが。
女神を模した
“五月の女王”を選び、
隋臣役の
侍女二人を引き連れて、
しずしずと。
若葉が仄かに
萌え始めている
野外音楽堂のステージ、
特別に設けられた
特別戴冠式の壇上へ上がり、
繊細可憐なティアラを
シスター長から授かる
儀式を中心に。
この季節にふさわしい演目の
合唱や寸劇の
発表会があったり、
有志の方々が
お届けくださった品々での、
災害基金のための
バザーが催されたり。
食堂やカフェの
名物クッキーや
スィーツを供される、
ほのぼのした
お茶会があったりと、
どこまで“五月祭”か、
端っこのほうは曖昧ながら、
OGの皆様には
楽しみになさって
おいでの方も多い
ビッグなイベント。
付属の中等部は言うに及ばず、
初等科や幼稚舎へ通う段階の
お子たち…もとえ
お嬢様がたでさえ、
いつか五月の女王様に
選ばれたいと
この時期の話題に
上らせるほどの


 「…にしては、
  今年初めて
  開催日が定まった
  ような気が。」

  なななな、何を仰せか。
  五月祭といや
  メイデイ、
  5月1日と
  決まっております。

 「……?(疑)」
 「ほら久蔵殿も、
  これまでのお話に
  そうと書いてあった
  記憶はないと。」

  いやですよぉ。
  わざわざ記す必要も
  ないことだから
  じゃないですか。

 「まあまあ、
  シチさんも久蔵殿も。
  風邪引いて倒れたお人を
  あんまり苛めない。」

  ヘイさん…
  優しい……。//////////

 「これ以上
  MCを引き伸ばさせても
  詮無いでしょう。」

  う……………。



……という、
お約束の
“枕(ツカミ)”はともかく。

桜の名所の賑わいも
そろそろ収まり、
続くは新緑の萌黄色
という都内の一角。
閑静な住宅地に鎮座まします
こちら様のGWと言えばの、
“五月祭”も
間近に控えた頃合いと
相成って。
普通一般の女子高生だと
せっかくの連休なのに
鬱陶しいとのお声も
出かねぬ学校行事に、
喜々として頬染める
お嬢様たちの筆頭株。
白百合、ヒナゲシ、
紅ばらという、
初夏を代表するお花を
こそりと冠された、
学園でも
人気を三分しておいでの
“三華”様がたが。
連休初日の土曜日、
清々しい晴天の下で
優雅に過ごしておいで。

 「文化祭ほどに、
  生徒たちだけで
  用意する催しでも
  ありませんしね。」

 「そうですよね。」

 「……。(頷、頷)」

  招待客へのご案内だの、
  お茶会の手配だのは
  シスターたちが
  頑張って下さいますし。

  生徒たちは
  どちらかというと、
  新入生歓迎のほうへと
  腕まくり、ですものね。

  ………♪(頷、頷)

新入生の中に
幼稚舎からという
生え抜きのお嬢様ばかり
じゃあなくの
外部から
中途入学という格好で、
新たにお目見えとなる生徒が
入り混じるのは、
何も高等部に限った話じゃあ
ないのだが。
それでも
ひとかどの人格も矜持も
固まりつつある
微妙なお年ごろ、
一番戸惑いも多かろう
多感な頃合いなので
ということも
配慮してのこと。
戦前からの催しながら、
戦火の時代の
沈黙期を経てののち、
これが一番最初に
復活したのも、
国内でも屈指と
噂に名高いお嬢様学校の、
校風とそれから、
各々がお互いに馴染むために、
重要なイベントとしませう
という主旨が
後づけされたからに他ならず。
一応は
推薦&投票によるものながら、
在校生の二年生から
選ばれるのがセオリーの
麗しき女王様の醸す風格やら、
それを素直に讃える
お嬢様たちの気風やら。
言葉を尽くすのではなく、
肌身で知ってもらいましょ
というこの催しは。
理屈はどうあれ…を、
毎年毎年
正に結果で示しており。
大盛況のうちに幕を閉じ、
その後、
生徒間での円満さも増す
という喜ばしい効果は
もはや鉄板。
殊に昨年度は、

 『ね、
  白百合のお姉様の姿、
  おステキでしたでしょう?』

 『ええ、とってもvv』

 『私は紅ばら様の
  冴え冴えしてらした
  横顔が…vv』

 『ひなげし様の笑顔って
  とってもまろやかで…vv』

思い出しての話題も沸いて、
初対面とか
外部編入なんてな壁も
あっと言う間に粉砕したほど、
そりゃあ
効果抜群だったとか。

 「……ちょぉっと
  待って下さいまし。」

 「去年は…。」




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