ワケあり Extra 3

□花陰でまったりと…vv
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春の盛りを象徴するのが、
その幾重にもという重なりで
濃密な
練り絹の花闇を織り出す
満開の桜花なら。
次に訪のう
新緑の季節を招くのは、
そんな桜がほろほろと
別れの涙を零すよに、
とめどなく散りゆく
花吹雪ということか……。




     ◇◇



新しい季節の訪れの
最も判りやすい四月は、
一年生なら新しい環境への緊張が、
最上級生なら
受験が控えているという
不安があるせいか、
なかなか過ぎゆかぬ、
何とも長い月だなぁという
感慨になるもので。

 「あらでも私、
  さほど緊張は
  しませんでしたよ?」

 「私も、
  それほど緊張は
  なかったですね。」

外部入学でしたから
覚えることは
たんとありましたがと。
絹糸のような金の髪、
今日は上半分だけ
引っつめに結い上げての
品よく後ろにまとめた
七郎次。
手の甲の半ばまでを覆う、
萌え袖のカーディガンも
愛らしく、
そこから覗く
きれいな指先を口元へ当てつつ、
そんなことをば
思い出して見せたのは。
だってのに、
やっぱり長いと感じた
四月だったと
続けたいのだろう。
うんうんと頷いた平八も
同感だったらしかったものの、
そんな彼女らのお言いようへ、

 「忙しかったし…。」

マキシスカートの下へ
きちんと揃えたお膝の傍ら、
ぱかりと開いた
バスケットから、
昨夜の内に焼いといた
桜風味のロールケーキと
純白の各々皿を
取り出しつつ、
久蔵が口にしたのが
どういう意味か。
皆まで聞かずとも
あとの二人へも
ちゃんと通じていて。

 「そういや、
  五月祭りの準備に
  駆り出されても
  おりましたわね。」

ともすれば
新入生歓迎もかねての、
ちょっとしたお祭りごとと
お茶会と。
イギリス発祥のお祭りを
模してのそれ、
五月の女王と、
その傍づきの姫二人を選出し、
ティアラを冠する儀式と
それから。
OGを招いての
演劇や吹奏楽などの発表会、
有志らが提供してくださった
物品のバザーなどなど、
イベント盛り沢山のお祭りが
連休中に催される女学園であり。
いきなり慣れのない行事に
お付き合いさせられ、
それが相当に繁雑だったので、
軽い憂鬱さを伴ってのこと、
長く感じたのかも知れぬ。

  イースターは
  やんないくせに。

  あらあらヘイさんたら、
  まだ根に持ってるの?

  だって、
  やっぱりおかしいですって。

  稲作主体の倭民族には
  一番大事な年の初め、
  そうじゃなくなった
  今時は今時で、
  年度初めという、
  やっぱり春先の忙しいときに
  玉子探しは無理ですよ。

  ………。(頷、頷)

言ったなぁ〜〜、
きゃ〜ん、ヘイさんたら
過激〜〜vvなどなどと、
相変わらず
屈託なくの朗らかに。
芝居がかった素振りで
叩く真似するお人があったり、
そうかと思や、
真似と判っていればこそ、
こちらも“いや〜ん”なんて、
大仰に避ける真似をしたりと。
屈託なくも
それは無邪気に、
葦草の青い香りも芳しい、
下ろしたての
花茣蓙に座ったまんま、
きゃっきゃと
愛らしいお声で笑い転げの、
痩躯をくっつけ合っての
もつれ合いのと。
それは目映いまでの
可憐さや稚さと、
ちょっぴり甘やかな
色香を滲ませ。
それぞれに
瑞々しい蠱惑をたたえた、
美少女揃いの、
しかもお年頃の
お嬢様がたが。
こちら、
三木さんチのお庭の奥向きにて、
それぞれなりの愛らしさを
目に目映いほど振り零しつつの、
無垢な笑顔で
じゃれ合っていたものが。

  さら………っ、と

三木邸の広いお庭の
どこからともなく、
一陣の風が吹きつけて。
椿の茂みやスズカケの梢を、
さざ波のような音させて揺らし。
紅ばらさんの
軽やかなくせっ毛や、
ひなげしさんの
さらさらとした赤毛を
音もなく
撫でていったかと思いきや。

 「   あ。」
 「わあ………。」




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