ワケあり Extra 3

□何てことないお茶受け話vv
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 6月初め、衣替えの頃合いには、それも梅雨寒むというものか、夏服半袖だと鳥肌が立ちそうな想いをするものが。今年は五月中のせっかちな夏日をそのまま持ち越したか、むしろやっと来たかと思わせるような、陽射しの強い、暑い日が続いた。

 「雨も降るには
  降りましたけどね。」

 「でも あれって、
  梅雨のというより、
  あまりに暑くなり過ぎての
  にわか雨とか、
  台風がらみでしたものね。」

 俗に言う“ゲリラ豪雨”の親戚のようなもの。地表の温度の上昇に、春の名残りの寒気団が追いつけなくてという、激しい雷雨や雹混じりの雨だったり。はたまた、こうまで早い時期に発生した台風が、何年ぶりかで日本列島へ至ったりという、イレギュラーぽい雨天だったのであり。それってつまりは、地表が熱々になるほどのいい日和が続いた証し。

 「それが、
  この何日かに
  やっとのこと
  梅雨らしいどんよりした
  お天気に落ち着いた
  だけのこと。」

 とはいえ今日はまた、いいお天気ですけれどと、教室から窓のお外を眺めやる3人であり。ただ…今日はともかく、その“梅雨らしさ”の中に、気温があんまり上がらない、という点まで含まれていたのは想定外で。寝る時間帯が蒸し暑かったのでと油断し、半袖や夏布団という軽装でいたところ、明け方の仄かな冷えに這い寄られてしまい、

 「もう七月も
  目前だというに、
  風邪を拾った方が
  少なくありませんものね。」

 寝込むほどじゃあないけれど、咳が出たり鼻が落ち着かなかったり。花粉症だろと油断していたら熱が出て、ああこれは風邪ですねと診断されて。そこまで進行してやっと気がつくという手合いが、この女学園でも結構出ている模様であり。当人様はのほほんとしていても、そこはやはり、周囲に気配りの人が配置されていようお家柄の人が多いので。大概のことは大事に至る前に手を打たれるはずが、

 「それこそ
  イレギュラーっぽい
  代物だったからでしょうかね。」

 「つか、いくら何でも
  もう幼稚園児じゃ
  ないんだし。
  ベッドへ
  もぐり込むときの格好まで
  管理されてるお家は
  さすがに少ないのでは。」

 ゴロさんからの差し入れですよと。他には誰もいない教室にて、どこにどうやって持って来ていたものなやら、結構な大きさの化粧箱を机の上へ載せると、その四隅を開きの、八百萬屋特製の三笠饅頭を広げつつ。そんな見解をやれやれと述べたのが、ひなげしさんこと平八だったが、

 「あ、えっとぉ…。///////」

 もう子供じゃないんだからあり得ないという言いようへ、途端に延ばしかけてた手が宙で止まったのが、

 「シチさん?」
 「いえあの…アタシも、
  寝具やパジャマは
  用意してもらったのを
  着てますから。」

 あり得ないとした対象が、選りにも選って間近にいたという地雷に遭ってしまい。これへは“ありゃ”と平八も、白百合さんこと七郎次同様に、その動作を止めてしまったものの。

 「寝具は仕方がない。」

 普段着と違って、それこそ関心が二の次三の次な代物だけに、家人任せになっても仕方がないと。ご自分もそうなのだろう、さらりと言ったそのまんま、そんな二人の手より出遅れたのに、二人ともが上空で止まって下さったお陰様。それぞれの種が1個ずつの中から、

 「…あ・久蔵凄いな、
  それ栗だ。」

 「好物は見逃しませんね。」

 小倉に抹茶、あんずにチョコ。カスタードに黒ゴマあんに、栗入りこし餡…とあった中から。出遅れたのに関わらず、自分が好きなの一等賞で掴み上げたのが。軽やかな綿毛の金髪にさも似合いの、玻璃玉のような澄んだ双眸と、色白華奢な面立ちと。なので、マシュマロとかマカロンとか、カフェラテを想起させる風貌ながら。実は…餡ものが大好物で、ゴマしょうゆ煎餅にも目がない、至って和風な 紅ばらさんこと久蔵お嬢様だったりし。

 “まあ、
  その辺りは、ねえ?”

 “アタシら全員に
  言える
  違和感かもですが。”

 この教室は普通タイプのサッシだが、特別棟の美術室のは引き上げ式のレトロなそれだったり、中庭にはアールヌーボー調のシックな温室。そうかと思えば、裏に位置する方向には、マロニエの這う壁も雰囲気のある、石作りの野外音楽堂があったり。はたまた、絶妙な枝振りに空間美が凝縮していて、そちらの粋筋から絶賛されているという古梅の傍らには、趣きある数寄屋づくりの茶室も完備。そんな風情ある背景に囲まれておいでの、聖なる淑女を育てましょうというおっとりした校風の満ち満ちた、品格あふれる この女学園(高等部)にて。

 いづれが春蘭秋菊か

 彼女らこそが、今代の代表。近年には稀なほどの存在感で、学園じゅうの注目と人気とを攫っておいでの。学外へまでその噂を轟かす、三華様と呼ばれし、特別の少女たちだったりし。ちょっぴり古めかしい型のセーラー服を、されどそれは優雅に着こなす、所作・動作の麗しさや、こちらはストレートの金絲を冠した色白繊細な顔容が醸す、上品な笑顔や深みのあるお声と口調が断然人気の白百合様に。玲瓏透徹、それは穢れなき横顔は、紛れもなく飛びっきりの美少女なのに、不意を突かれても動じはしない凛然とした態度、その毅然とした有り様から。一部下級生たちからは、殿方より凛々しいという方向での熱視線を受けておいでの紅ばら様。近隣に隣接する幾つもの工学系大学院から、研究スタッフへの招聘という誉れを頻繁に受けておいでの天才で。パソコン操作も、専門講師が頼りにするほどの辣腕ぶり。だというのに とっつきやすそうな朗らかさと、こちらもそりゃあ愛らしい風貌や、なのに大人びて麗しいボディラインが蠱惑的な子悪魔と巷で評判の ひなげし様という、どこからも死角なしな顔触れ揃いの“三華様”がただが、

 「相変わらず、
  ゴロさんて上手だよねぇ。」

 「………vv(頷、頷)」

 「あ、このお抹茶あん、
  苦くない。」

 「そうなんですよ、
  私も驚きました。
  だだ甘くもないでしょう?
  何でも、
  いいお茶を使えば
  苦くないし、
  後味にも
  あの独特の癖は
  出ないんですってよ?」

 「………。(ふ〜ん)」

 「ほら、
  久蔵殿も食べなんせ。
  あ〜んvv」

 「…vv///////」



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