ワケあり Extra 3

□新緑 爽やか
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六月というと
“梅雨入り”という
風物詩(?)が
まずはと連想されるのだが、
実質 鬱陶しい雨天が続くのは、
案外と
七月を目前としてから…
というくらい遅いのが定番で。
それよりも先に、
一足早い
初夏のような日和が
続いた中で、
やっとのこと
半袖の制服を着てもよくなる
“衣替え”が来ることで、
道行く人々なぞに
暦の流れを伝えてくれたりして。
一昔前だと、
節句ごとに
きっぱりと気持ちを切り替え、
ついでに箪笥も
中身を入れ替えて。
春になったから
綿入れは着ないだの
足袋は履かぬだのという、
着るものやお洒落へも
“粋”を貫く人が
いたものだったが。
今時の
フリーダムな世情では、
そんなやせ我慢をするだなんて、
せいぜい女子の人が
残暑厳しい中で
ファーつきの小物を
あしらったお洒落を
頑張ったり、
逆に、
寒空にミニスカートを
履くくらいのもの。

 「まあ、今時は
  機能性下着ってのが
  ありますし。」

 「それに、
  建物の中や
  地下街なんぞへ入れば、
  暑さも寒さも
  あんまり
  関係ありませんしね。」

そういう方面への
努力や我慢も、
一頃ほど“大変”じゃあ
なくなったと
評したお嬢様二人。
ミニスカート履きたガールの、
白百合さんこと
七郎次お嬢様にしてみれば、
暑い寒いより自慢の美脚を
いかに映えさせるかの方が
重要なのだし。
彼女ほど
“我慢”はしないまでも、
やっぱり
流行のかあいらしい
カッコには目がない、
ひなげしさんこと
林田さんチの
平八お嬢様もまた、
同感ですと
大きく頷いており。

  とはいうものの

そんなことより、
今日から
こちらに衣替えとなった
夏服のあちこちが、
しわになっていないか、
畳み癖がついてはないか
の方が気にかかり。
恥ずかしいことに
なってませんかと、
お互いに
確かめ合っていたり
するところは、
まだまだ可愛らしい級の
お嬢様がたでいらしたりして。
こちらの女学園の夏服は、
合服冬服では
上下ともに
紺色基調だった
セーラー服の、
ブラウスの袖と
身頃部分だけが
白に差し替えとなり、
どんどんと
明るくなる陽を弾いて、
なかなかに爽やかな見栄え。
駅から出て来て
そのままゆるやかな坂をゆく
女学生たちの流れが、
そのような装いへと
一変することで、
ああそうか、
そんな時期かと、
ここいらの皆様も
季節の入れ替えを
感じるそうであり。
柔らかだった
若葉の発色が
次第に落ち着いて来て、
さまざまな緑があふれる中。
細い肩を覆う白い制服や、
そこから伸びる
嫋やかな白い腕が、
女子高生らの
若々しさや瑞々しさを、
ますますと
目映く見せてもいるのだが、

 「スーパー・クールビズは
  採用されぬのか。」

日焼け止めの新製品が、
そろそろ出揃ってますよね、
そうそう、
今年のは特に
しっとり仕上がりのが
多くて…と。
今時の話題を
取り交わしていた、
白百合さんとひなげしさんに
やや遅れたか
後方から追いつく格好、
声だけを先に
お届けしたのは誰あろう、

 「おや、久蔵殿。」

やはりやはり、
白いセーラー服へと
衣替えをなさったばかりで、
軽やかな
カールのかかった金髪や
色白な細おもてが、
襟(カラー)の濃紺に
いや映える。
紅ばらさんこと
三木さんチの
久蔵お嬢様が、
はろぅと片手を挙げて
お友達二人へ
ご挨拶したものの、

 「まだ朝のうちは
  涼しいほうでしょうに。」

今日は普通登校だが、
剣道部の大会前なぞは、
朝練があっての
早めに出て来ることもある
七郎次が、
ちょっぴり跳ねていた
後ろ髪を
ちょいちょいと整えてやりつつ、

 「五月のうちは
  早く半袖にならないかと
  待ち遠しかったけれど、
  今日からは逆に
  カーディガンが
  要るかもって
  案じてたほどですよ?」

でもまあ、
そうと言いたい気持ちも判ると、
七郎次が苦笑気味なのは。
こちらの久蔵お嬢様、
実は暑さにやや弱く、
下手に無表情のままで
我慢をするものだから、
何も言わないまま
いきなり倒れて
周囲を慌てさせる、
困った方向での
頑張り屋さんだったりし。

 「でも、
  半袖の初日が
  こうもいいお日和だというのも、
  久々じゃあありませんか?」


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