■千紫万紅 〜賞金稼ぎ篇 4

□緑の苑にて
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桜も遠のき、
陽射しも日に日に
目映さや力を増してゆき。
それを浴びる若緑もまた、
伸び伸びと、
されどまだ
萌え初めの
やあらかい色合いで。
そこが日蔭でも
明るく感じられるほどの、
まさに新緑で
世界を照らす生命の力よ。

 「……。」

落葉樹ばかりでも
ないながら、
それでも
冬枯れからほんの二カ月で、
こうまでの緑を
蘇らせた木立ちの中。
若葉の隙間から
こぼれ落ちる光を浴びて、
音もなく歩む人影がある。
深紅の衣紋に時折そそぐ
木洩れ陽が、
同じ赤を、
なのに随分と明るい色へと
染め直し、
頭首(こうべ)に冠した
金の髪を、
弾けるような光で
満たしては、
神々しく照り輝かす。
赤という色は
眸を引く色彩のはずで、
ましてやそれへと拮抗する
緑の中にいるというに。

 “あそこまでの消気を
  呼吸のようにこなせるとはな。”

自分の居場所だ、
気を張る必要なんて
あるものかと、
そんな悠然とした足取りで。
だというに、
萌え初めの下草や
雑樹の茂みを
かさとも鳴らさずに進む姿は、
降臨したばかりの
この森の主だと言われても、
そのまま信じられただろう
高潔さに満ちており。
表情薄い横顔からは、
人の姿なぞ仮の器だとし、
操る術さえ面倒がっている、
一種の高慢さや権高さが
匂わないでもなかったが。

 「……………島田。」

木立の狭間にいたのは
こちらも同じ。
しかも、こちらがまといしは、
褪めたそれとはいえ、
陰には馴染めぬ白という色。
風に揺れる梢が、
木洩れ陽を
ふんだんに散らしているよな、
悪戯な木立ちの中ゆえに。

 『そうですね。
  卯の花や
  ユキヤナギの花房が
  新緑に映えて目立つように、
  この時期の白は
  隠れようが
  ありませんでしょう。』

地面が
目映いくらい白く晒される、
夏場ほどの陽射しにでも
なったなら、
いっそ日なかに居た方が
目立たぬかもと。
そういう風流に通じている
元副官殿が、
にんまりと
小意地の悪い笑みを
見せてくれたは後日の話で。

 「……中司が。」
 「参られたか。」

電信で連絡して来た
州廻りの役人の名を告げられて、
捕縛した賊らへの
見張りかたがた、
切り株に腰掛けていた壮年殿が、
待ち兼ねたという意味合いの
苦笑をこぼす。
退治する依頼を受けた
盗賊一味を、
拿捕した後の話を
刷り合わせたのが昨夜のこと。
数にまかせて
近隣の小さな里を
いいように蹂躙していた
野盗らを、
例によって
たったの二人で
からげてしまった
“褐白金紅”だが。
ただ畳めばいいと
いうものじゃあない、
その後、
それなりの施設へ収監せねば、
非力な村人らでは
扱い兼ねもするだろうから。
引き取りの人手を確保し、
彼らがくる頃合いを見越して、
到着を逆算した上で
執行へと移らねば、
重畳とは言えぬ。

  そうは言っても、
  何だったら
  移送班が到着してから
  掛かっても
  十分間に合う
  手際の良さじゃあるのだが。

今回の仕置きも、
どこだかやや遠方から
塒へ戻ろうとしていた連中の、
行く手を阻んで
立ち塞がった壮年が、
まずはと
大太刀振るって折り畳み。
瑞々しい緑の中、
白い長裳をひるがえし、
雄々しくも鮮やかな太刀筋で
数十人という頭数を伸した後、
少数ながらも
威嚇には十分な
装甲車代わりの鋼筒が
いたものが、
機動力を発揮して
尻に帆掛けて逃げかかったのを、
どの方向へ向かっても
応じの利く若いのが、
樹上という高みから
赤い陰として降って来て
すかさず すぱりと切っての
足を止めてから。
くくった連中は
勘兵衛が見張り、
後から駆けつける
移送役に判りやすいよう、
木立の入り口まで
出ていた久蔵。
あまりに簡単で
造作もなかったことへの
不機嫌か、
ややもすると
幼い子供の駄々のよに、
立ち上がった勘兵衛の
砂防服に包まれた
広くて頼もしい背中へ、
頭のてっぺんをとんと押し当て、
そのまま ぐりすり
押し込みかかり。
そんな
頑是ない態度を見せる
若いのへ、

 「判った、判った。」

背後を取られたというに、
それも余裕か
それとも信頼か。
精悍で形のいい口元ほころばせ、
何かしら約束でもするように、
だが中身は言わず、
何ごとかを言いたいらしい
相方のお顔を
肩越しに見やると、
目許までたわませ、
ふふと甘く微笑ってやれば。

 「〜〜〜〜〜。///////」

そんな些細なことで
機嫌が直った他愛なさ。
そして、
そんなやわらかい
以心伝心を見せつけられた
というに、
それが…
さっき繰り広げた
剣撃の〆めに、
不敵に見交わされた眼差しと
変わらぬ代物だったように
解釈した賊らとしては。
勘弁してくれ
もう括られたおらたちだ、
これ以上手も足も出ねぇと、
急にざわついて、
侍二人を
却って戸惑わせたなんてのは、

 『……賊の質も
  落ちたもんですねぇ。』

殺気が惚気かの
区別もつかぬとは、と。
斜め後ろへ外した感慨、
七郎次が
こぼして見せたのもまた、
相当 後日の話で
あったそうでござった。





   〜Fine〜  12.05.26.





何が書きたかったやら。(おい)
ああそうだ、
5月23日が
“キスの日”だったらしいのを、
どこかで拝見し、
あああそういう記念日は
チェックしてたのになぁと、
残念に思っての腹いせに(?)
書き始めたんではなかったか。
……そっちは
別のシリーズで
敵を討とうと思います。
(でもなぁ、
 確か 恋い文の日じゃ
 なかったかと
 記憶してるんだが。)

新緑の中に佇む、
白い衣紋の勘兵衛様は、
結構目立つんじゃなかろうかと
途中から思ったのが
敗因だったかも。
こっちは
死に物狂いで抵抗したに、
いちゃいちゃ出来る
余裕のお武家様たちに
尚更 参った…という手合いが
相手だったのが、
そういう雰囲気さえ
読み取れない
格下まで出て来ようとはと。
人前でのいちゃいちゃには
そちらさんももはや慣れちゃって、
苦笑も出ない
おっ母様に
なりつつあるようです。



 

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