■千紫万紅 〜賞金稼ぎ篇 4

□はながすみ
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春の訪れを
告げるものには
色々あって。
待ち遠しさを
掻き立てるよに早々と、
ユキワリソウやら
ツワブキやら、
芯の強そうなのが
雪の下からお目見えし。
空の青が濃くなれば、
池や川畔の氷が緩みだし、
鳥たちの渡りも始まって。
寒が戻っても
耐えて屈しないのが
梅ならば、
陽だまりに香るのが
ジンチョウゲ。
モクレンの白が去らぬうち、
ふと、見上げた視野の中、
まだだと思っていた桜が、
紫がかった空を背に
淡い薄緋でちろりと
二、三輪ほど
咲いていたりすると、
不思議なくらい
胸が騒ぎ立つ……。




     ◇◇


生け垣のつもりか、
それとも旅人へ供した
日除けもどきか、
街道沿いには珍しい、
桜の並木が随分と続く。
よほど名のある、
言われもあるよな、
古参の一本桜と違い。
普通一般的な種類の
それであるらしく。
とはいえ、
始まりのところからでは
終わりが判らぬほどという
結構 遥かな距離を、
しかも街道に沿って
連なっているからには、
人の手で植えられたには
違いなかろう。
旅人へ
宿場や里が間近いよと伝える、
塚石代わりの
巨木になるではないながら、
夏は木陰が涼しかろうし、
葉のない冬場でも、
連れのない身の旅人へは
それなり、
風景が変わることで
気を紛らわすための
養いにはなる。

  そしてそして、
  何と言っても
  この時期なれば。

日々につれての僅かずつ、
青みが増してく空色に
添うてのこと。
雪の白より甘い色合い、
重なり合えば
薄色も深まろう
薄い緋の滲む桜花の咲くのが、
人々の心を晴れやかに
浮き立たせてやまぬ。

 「………。」

 「…ほお、
  これは見事な。」

最初は恐らく、
川沿いなればこそ、
土手の補強や
護岸の意味もあっての、
並木に植えていたもの
だろうけれど。
長の歳月が経つにつれ、
川は涸れたか、
それとも進路を変えたのか、
さほど高さもない
傾斜(なぞえ)の下には、
雑草ばかりの
原っぱがあるばかり。
目映いほどの
陽に照らし出されて、
菜の花だろうか
鳥の子色の小花がちょろりと
雑な緑に紛れて覗き。
手前に連なる
臙脂の幹の向こう、
過日の川幅の
対岸らしき辺りには、
里があるのか、
畑らしい空間もあるけれど。
まだ何もない土の、
それでも起こされたからこその
湿った香りが春らしく。

 「まだ満開には
  一呼吸ほど
  足りぬようだがな。」



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