■千紫万紅 〜賞金稼ぎ篇 4

□春を待って
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南北で格差はあるものの、
1年を通じて
四つの季節が巡るこの大陸では。
冬の厳しい寒さや雪で
家屋に閉じ込められてしまう
地域でも、
だからこそ
待ち兼ねた春の訪のいを祝う
祭事や行事が
随分と早い時期から
こそりとあるとかで。
湖に張った厚い氷が、
水や風の温みから割れる現象を、
春の神様のお渡りだとしてみたり、
何の、
年明けから春とする暦を
用いる地域もあったりし。
固まってしまった
田の土を耕して起こしたり、
稲籾を苗代へ蒔いて
早苗を作り始めたりを
いつ着手するかが、
それは大事なことだからであり。
雪原の中に
雪割草を見つけちゃあ
頬をゆるめ、
ふきのとうが
黄色いお花を覗かせ、
凍りついてたせせらぎもまた
顔を出すのへ、
まだまだ白い吐息を
口許へまとわりつかせつつも、
ああもうすぐだねと顔を上げ、
頭上の空の青が明るいの、
あらためて感じ入る。

 「そういえば、
  朝んなるが早うなったね。」

 「そうそう。
  ちょっと前は
  いつまでも暗うてな。」

水は冷たいわ、雪は退かんわ、
ホンマに
さんざんやったけどなと。
働き者のおっ母様たちが、
井戸端での愚痴半分、
それでも
春が間近い兆しを数え上げ。
元気な子供らは、
雪の降らぬ日が続いたからと、
大人たちから やっとのこと
“もういいよ”との
お許しが出たのを皮切りに、
雪の中へ繰り出しちゃあ
頬を真っ赤にして駆け回り、

 「おお、おお。
  道を作ってくれてまあ。」

 「畑や畦を
  踏み荒らすんじゃないよ。」

土手やら小川やらが
その輪郭を現しも
したからこその、
外遊びの解禁ではあったが、
危険が
全くなくなった訳ではなくて。

 「判っとぉよ。」

 「ふきン子あったら
  摘んでくるかんね。」

大きめのわらの沓を、
履いてか履かれてか、
小さい子までがたかたかと、
木々はまだ裸ん坊な
木立ちのある方へ向って、
連れ立って駆けてゆくものの、

 「あ、こら。」

 「こっちはまだ
  雪だまりが消えんから、
  里のほうへ帰れ。」

 「え〜〜〜?」

柴拾いにと
来合わせていたおじさんたちから、
勢いのつきすぎな腕白ぶりを
叱られてしまったりもし。
祠や坂崖には
近寄らんからと粘るものの、
いかんいかん、
お前ら遊び始めたら
見境なくなるやろがと、
そこは大人たちの方が
一枚も二枚も上であり。

 「ちぇー。」

せっかく外に出て来たのに、
遠出出来ぬは詰まんないぞと
不平をこぼす子らへは、

 「それより
  雛様祭りの
  手伝いはせんのか?」

いよいよ間近い春を告げる
祭りの中、
一等にぎやかで
華やかなそれを、
大人も男衆も含め、
里の人らは
皆で待ち受けておいで。
可憐な花のお目見えへ、
都会のほうでは、
無病息災を祈ってのこと、
和子の身代わりとしたお人形を
流したしきたりを、
瑞々しくも麗しい
娘らの祭りとした目映さや、
その華やぎだけ真似てのこと。
田畑を起こす前に、
耕作の神様への奉納、
幼子の稚児舞いに始まり、
娘らがゆかしい華族の扮装をし、
白木の舞台で巫女装束で舞う、
そんな行事がこの里にはあって。
雪に押し込められていた
長い長い冬が終わるよ、
待ち遠しかった春になるよとの、
区切りのような祭りでもあり。
それがもうすぐそこまで
来ていることを指し、
お手伝いはせんでもええのかと
訊くおじさんたちへ、

 「オレら、
  まだ飾りのお花
  よう作らんし。」

 「そやから、
  ふきン子やら
  きれーな松葉やら、
  林ン中で
  見つけて来よ思て。」

巣の中から
親鳥を見上げる雛たちのように、
幼い坊ンやお嬢ちゃんたちが、
小さな身を寄せ合っての口々に、
そんな一丁前を言い返す様は、
生意気というには
まだまだ他愛なく。
おちびさんたちなりの
理屈を並べて、
なあなあ良いだろと、
快進撃の限界を広げたいと
頑張ってはみるものの、

 「ダメだ、ダメだ。」

帰った帰ったと手を振って、
里の方へ追いやる仕草を
するばかりのおじさんたちで。

 「???」



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