ワケあり Extra 2

□銀盤にてのコーカサスレース?
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いつまでもどこまでも
果てしなく続く気のする、
単調なばかりの
長い長い階(きざはし)を、
か細いヒールをものともせず
休みなく軽快に

駆け上がっている人影が二つ。
淡調な空間の中を
ただただひたすら駈けている。
すんなりとか細い肢体へ
張りつくようなワンピースは、
二の腕がふんわりと膨らんだ
ロマンチックな
デザインがお揃いな、
青基調のと黄色基調という
色違いのペアルック。
スカートと呼ぶには
随分と丈の短いボトムを、
その両サイドに
華やかなフリルの波にて飾った、
それはそれは愛らしいいでたちで。
まとっている二人もまた、
その可愛らしいいでたちに相応しく、
十代の瑞々しさに
双眸をきらりら潤ませており。
きっと表情豊かなのだろう
端正なお顔を、
だが今は、
何にかへの決意を秘めた、
凛とした冴えで
鋭く研ぎ澄ましており。

 「…あっ!」

不意に何かの影が
行く手へと
よぎっていったものだから、
あまりの唐突さに
気勢をはじかれたか、
レモンイエローの衣装を
身につけていた少女が
危うくつまづきかけての
たたらを踏んでしまったほど。
腰の両脇に
お花のように咲いている
フリルをひらリひるがえし、
こちらはアクアブルーの衣装を
まとっていた金髪の少女が、
ギョッとすると
立ち止まってしまった連れを
振り返る。

 「ヘイさん、大丈夫?」

その場へ片膝つきかけたほど、
つんのめったらしかった
赤毛の少女を気遣ったところ、

 「ええ、大丈夫ですわ。」

にこぉっと笑った
お友達だったものの、

 「ダメですよ、シチさん。
  このカッコの時は
  私はピュアトパーズです。」

チッチッチッと、
立てた人差し指を
ワイパーのように振って
しっかり訂正して見せるところは
結構余裕かも。
そんな彼女だが、
おもむろに口調を引き締めると、

「あと少しです。
 この迷宮の階を
 上り詰めたところに、
 憎っくき敵の総大将が。」

そうと確かめるように言い、
勿論と相棒がこっくり頷く。
真摯な眼差しを見交わした
少女ら二人が背負うのは、
よその次元から虎視眈々と、
こちらの世界を狙っている
超能力集団とその総裁との対峙だ。
人々の心の中のどこかに必ず、
少なからず抱えている、
負の傾向や心持ちにつけ込んでは、
増幅させるよう煽り立て、
怪人のような存在へと
変身させてしまう悪人たちであり。
そんな人々を浄化して、
元の姿へと戻しつつ、
相手の陣営を
突き崩してきた少女らだったが、

 「よくもここまで
  辿り着いたものよの。」

どこか嘲るような声がして、
二人の少女がハッとすると
周囲を警戒する。
既に異次元空間なのだろう、
あたりは
霞が掛かったような淡色の世界で、
だが、
階段が仕掛けのある迷宮のように
延々と続いていた訳ではない証し、
霞の先に
人影が立ちはだかっているのが
透かし見える。

 「あなたたちはっ!」

片足引いての
それぞれで身構えれば、
霞も一気に払われて、
その先にいた人影も
輪郭が鮮明に現れる。
大柄な片やは、
カラシ色とうぐいす色の
粋な小袖を二重に重ね、
うなじを
大きく抜き衿にしてまとった
和装の女性…にも
見えなくはないけれど、

 「でたわね、
  偽女ギツネのゴロベエ。」

キッと鋭い眼差しで
ピュアトパーズさんが
睨み据えたるお相手は、
ふふふんと
おしろいを塗ったお顔を
不敵にほころばせ、

 「偽は余計よ、お嬢さん。」

良く響く低音ながら、
婀娜な口調で言い返し。
そして
その傍らに立っていたのが、

 「お前らが
  ここを突き止めて
  やってくるのは
  時間の問題と判っていたさ。
  こちらとしても
  そろそろ一気に
  方をつけたかったのでな、
  だから妨害なぞせず
  招き入れてやったまでよ。」

随分と高い衿の
軍服をまとった黒髪の男、
鋭角的なお顔を
鋭く歪ませる彼へは、
アクアマリンの衣装を着た少女が、
負けじという勢いで
そのお顔を険しく尖らせる。

 「ヒョーゴ提督、
  アタシたちの仲間を
  返しなさいっ!」

怒りと苦痛の
綯い交ぜになったようなお顔になって、
高いお声を上げた
サファイアさんへ、

 「仲間?
  一体誰のことかな、それは。」

覚えがないような
言い回しをしつつ、
そのくせ、
片方の手を高々と差し上げると、
指をぱちんと鳴らして見せる。
すると、
どこからか
それは素早い影が舞い降り、
軍服姿の男の前へ、
楯になるかのように
降り立った痩躯の人影が一つ。
黒を基調にした重々しい、だが、
基本のデザインは
対峙する二人の少女の
まとった衣装と寸分違わぬ
フランス人形のように
ペチコートを
山ほど咥え込んでいるらしき
ミニスカートと、
二の腕まで覆う
ふんわり膨らんだ袖も愛らしい、
そんないでたちの少女であり。

 「ピュアオニキス、
  こやつらを屠ってしまえっ!」

水晶の大飾りのついた杖を振り、
対面する少女らを指した
提督の指示に従って。
後から現れた、
こちらも金の髪した
表情の乏しい少女は、
衣装の袖口に
仕込んでたらしい
スライドスティックを、
勢い良く腕を振るうことで
すべり出させると、
細かいレースに縁取られ、
手の甲までを覆う袖口が
いかにも可憐な、
白くて小さな手へ
そんな得物を握り締め。
ヒールの足元を物ともせずに、
中空高くその身を躍らせ、
立ち向かう少女らへと
飛び掛ってくる。

 「キュウゾウっ!」
 「シチさん、違う。
  ピュアガーネットです。」

あの提督の洗脳術により、
衣装も真っ黒に染まってるほどに、
悪の化身と化してしまった仲間。
軽やかな金の綿毛も愛らしく、
つんと澄ましたお顔が
出来のいいビスクドールを
思わせるよな美少女なのに。
戦いぶりもまた鮮やかだった、
最強だったクールビューティ。



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