■寵猫抄 3

□真っ赤なお祭り
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いよいよカレンダーも
最後の一枚となり、
世間様も何とはなし、
さわさわと慌ただしく
なり始める頃合い。
何と言っても
今年最後の一カ月であり、
毎年毎年、
よくもまあ種類が尽きないなと
驚くほど、
いろんなことが
起きたのを振り返る話題が
取り沙汰されの。
振り返るといや、
春も夏も秋も変梃子りんだった
この1年だけに、
冬もまた、
何だか妙な案配なのかしらと、
お天気予報士さんが
苦笑をなさりのと。
そういった話題に、
何とはなくの片手間に
接しているのが、
こちら様、
島田せんせえのお宅だったりし。
何しろ、御主の勘兵衛様は、
小説家という
執筆業を営んでおいでなので、
頭の中へと構築するものは、
時によって2シーズンほど先の
話だったりもするお人だし。
年末と言えば、
年末進行の前倒しという事情に
巻き込まれるのが常のこと。
ブロードバンドの普及による
ネットの拡充やら、
ワールドワイドな
グローバル化とか、
昔に比べれば格段に、
世界中がリアルタイムで
つながっている時代だとはいえ。
アナログ媒体は
まだまだ廃れないし、
紙へと印刷された
文章への愛着は
そうそう消え去ることもなく。

 ……要するに

月刊誌・週刊誌・
季刊誌を問わず、
年末年始号の雑誌の
発行へ向けての編集作業は、
印刷・製本・出荷
といった部門の業種の皆様が、
仕事納めとされて
お休みへ突入なさるまでに
終えないと、
どえらいことと
なってしまうため。
そこへ至るための“逆算”が
普段よりも前倒しになっており。
極端なところだと、

 ― 新年
   明けまして
   おめでとうございます、
   昨夜の紅白は観ましたか?

なんて枕で始まる作品を、
まだ残暑厳しい頃合いに
書いていただかないと、
到底間に合わない
…なんてなお話が、
冗談抜きにあったほど。

 “まあ、
  勘兵衛様は
  その点は
  大丈夫なのですが。”

連載や企画を
数本ほど並行して
抱えていなさるものの、
日頃からも、
何か降りて来たから…というノリで、
あれこれと書きだめを
なさっておいでのマメな人。
時折、
久蔵と遊び過ぎての時間を浪費し、
しまった
依頼があったのにぃ…という
ケースもなくはないものの。
そこはそれ、
尻を叩くのが上手な
敏腕秘書殿がついておいでで、
それ以上
逃避なさってる場合じゃ
ありませぬと、
愛らしい仔猫様を
ひょいと取り上げの、
もっと遊びたいと仰せなら、
早く書き上げて
しまいなさいましと。

 『でないと、
  アタシもパートに
  出にゃならなくなりますし、
  久蔵も、
  カンナ村へと
  預かっていただくことに
  成りかねませんよ?』

 『おいおい。』

青玻璃の双眸を甘くたわめての、
輝くような笑顔と
ドスの利いたお声とで、
最も手痛いところへの
脅しをかけるのも
辞さない恐ろしさ。(う〜ん)

  ……まま、
  そこまでの文言を
  言った覚えは、

 「これまでに一度だけ、
  ですよう。」
 (あるんかい・笑)

それもエイプリルフールに、
という
手合いだったのではあるが。
こんな台詞、
一度でも言われりゃあ
十分だ、とばかり、
勘兵衛様を
例がないほど凹ませたと、
身内の皆様方へも
秘密裏に知れ渡っているのが
また恐ろしい。
それがらみか、
出版関係とは
言えなくもないけれど
…という畑違い、
音楽系アミューズメント会社や、
某アニメ製作会社からも、
七郎次へという
名指しのお歳暮が来たほどで。

 一体どんな
 ネットワークを
 お持ちなご一家なのやら、ですな。

そんなこんなといった、
いかにも
作家せんせえならではな
年末事情はともかくとして。
年末締め切りの依頼原稿が
まだ片付いていない内は、
お忙しいせんせえを
そっとして置きつつ、
その他の家人は着々と、
年末と迎春の準備を
覚書きにしたためていたりもし。

 「えっとぉ、
  年賀状は書きましたよね。」

 「にゃうvv」

 「そうそう。
  久蔵にも
  頑張ってもらいましたものね。」

昨年末は寅年用だったので
重用させていただいた、
PCで取り込んだ
仔猫の肉球写真つき年賀状が、
身内に限ってという
配りようをしたにもかかわらず、
あちこちで
なかなかにウケており。
ならば今年は、
卯年の図柄なのでと、
ウサ耳のカチューシャをつけた
久蔵の写真を取り込んだ。
写真だと
仔猫のまんまという姿にしか
ならないが、
メインクーンの美猫さんが、
何これ?と、
無邪気にも つけ耳へ
手で触れてるポーズは
とっても愛らしく。

 「うん。
  こっちの久蔵も、
  俺 好きだな。」

 「にゃんvv」

冬に入る前にとの
お心遣いか、
仔猫様にはそれでしか
とある効果の出ない
毛糸の補充をと、
シチロージさんから
言われてのお使い、
わざわざ持って来てくださった、
カンナ村のお兄さん、
キュウゾウくんもまた
太鼓判を押してくださって。
大好きなぽかぽかコタツからでも、
この時ばかりは
飛び出して来る久蔵に
“にゃあにゃvv”と懐かれながら、
当家の年賀状を
“かわいい、かわいいvv”と
お褒めくださった小さなお兄さん。
ふわふわした金の髪も、
まだまだ丸みのほうが強い
ぱっちりとした双眸も、
色白な頬や
子供の造作が抜け切らぬ
小さなお手々も、
どこもかしこも
久蔵と似ていて、
どちらも変わらぬ愛らしさだが。
それでもやはり…
ただ単に年上だから
というだけじゃあなくの、
頼もしさというのか、
しっかり者らしき
安定感とでもいうのだろうか、
そういう堅実さも
見え隠れする彼なのが、

 “ああ、
  こんな風に
  しっかり者のお兄ちゃんに、
  久蔵も
  育ってくれるんだろうかvv”

実は時々、
鬼の副官にならんことも
ないながら、(余計な世話です/////)
それでも多分に大甘な、
こちらの七郎次さんを、
そういう方向でも
うっとりさせる、
プチ大人っぷりを
覗かせてくれており。

 「うわ、
  今年も飾ったんだね。」

 「みゃん♪」




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