■寵猫抄 3

□秋の催しといえば…
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気候がいいからか、
それとも。
概ね収穫の時期なので、
豊饒を祝ったり、
そんな恵みを神様に感謝して、
祈りや舞いなど奉納したり
といった習いがあったからか。
秋は神事関係の行事が多い。

 「まあ、祭りというと、
  四季のどの時期にも
  何かしらあるものだが。」

 「そうですね。
  あと東北の方では
  夏が短いせいですか、
  夏に大きいのが
  続きますよね。」

米処というイメージが強いが、
それだけじゃなく、
夏にはサクランボに桃、
秋になればリンゴといった
果実も実る。
信濃では
葡萄やソバですかねなんて、
土地の特産品へと
話が逸れた七郎次のお膝では、

 「みゃう?」

自分もお話に加わるのと
言いたいか、
今が見頃なモミジを思わす、
それは小さなお手々を広げ。
熱弁振るう様よろしく、
お膝に掛けられたコタツ布団を、
ぱふりぱふりと
小さな力で叩いておいで。
幼子のそんな熱の入った態度を見、
おやおやと
目を見張った島田せんせえ。

 「如何した、そのように興奮して。」

よしよしとすぐの真横から、
ふかふかの金の綿毛を
大きな手でくるむと、
ぱふぱふと撫でてやる勘兵衛で。
小さな坊や、
どちらの大人のお膝に座っても
お顔が天板の下へ
隠れてしまうので…
というのは後づけの理由。
此処でお食事
…という場合を除くと、
大人が二人、
二人しかいないのに、
一つ角を挟む格好で、
隣り合って座っている、
今日このごろの
島田さんチだったりし。
それでなくとも、

  差し向かいというのは何だか、
  微妙な距離が
  なくはないかしら、と
  思っておいでだったらしい、
  島田せんせえで。

コタツのような
小さめの卓でさえ、
間に挟まっているのが
何故だかもどかしい。
夏場、ソファーセットで
過ごしていたよりも、
お互い、
ずんと近づいているはずだのに。
その“ずんと近づいた”ことが、
今更の含羞みを招くのか。
敏腕秘書殿、
何かの拍子に目が合ったりすると、
その青玻璃の双眸を瞬かせ、
さりげなくながら…そそくさと、
視線を逸らして
しまうものだから。
ならば、
その身を寄せよじゃないかと。
そうなりゃあからさまに
逃げ出す訳にも行くまいなんて、
微妙に意地の悪いこと、
目論むあたり。

  まだまだお若いです、
  壮年殿。(笑)

  そして、
  それはさておいて。

小さなお手々での
蹂躙くらいじゃあ、
埃ひとつ立たないとはいえ。
こたつ布団を叩くほどというのは、
なかなか激しい自己主張。
癇癪を起こすなんて、
これまでにもなかったことだし、
何かあったのか、
何か訴えたいのかと。
なかなかの弾けっぷりを
披露した仔猫様を、
深色の双眸が座る目許細めて、
勘兵衛が
よしよしと宥めておれば。

 「先程買い物に行った帰りに、
  少し遠回りをして
  神社へ寄ったのですよ。」

七郎次が坊やに代わって、
そういえば途中から
大きく逸れていたお話を
戻しがてらに、
そこで見て来たことの
説明をする。
いいお日和だったので、
もうちょっとお外を歩こうかと。
街路樹から降り落ちる木の葉が、
風に攫われるのを追っかけ追っかけ、
そうやって辿り着いたのが、
町並みから
外れかかったところにあった、
小さいながらも
ちゃんと鳥居のある
可愛らしい神社。

 「そういう時期だから
  でしょうね。
  平日でしたが、
  晴れ着を着た小さい子たちが、
  親御さんと
  お参りに来ておりまして。」

 「みゃあ!」

ねえとお膝の仔猫様と
お顔を見合わせる
七郎次だったのへ、

 「そうか、七五三か。」

そういえばそういう時期だのと、
そこは勘兵衛にも
すぐさま通じて。

 「みゃ、にゃうみぃvv」

それにつけても、
随分と嬉しそうにしている
久蔵だったのは、

 「こんな可愛い子ちゃんですもの、
  お子様たちも
  放っては おきませんて♪」




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