■寵猫抄 3

□久し振りだったネvv
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残暑をいつまでも引きずった秋は、
そのくせ、
お彼岸とか霜降とか、
丁度 暦の節目となる頃合いに
急に寒気が増し。
ああこれで
何とか秋めくかと思わせといて、
だってのをあっさりと裏切っちゃあ、
やっぱり
平年よりも高い気温に
戻ってしまっていた日々が続いた。
いつ始まるものかと
じりじりさせつつ、
いつまでも夏の気配の消えぬ、
何とも
落ち着きの悪い秋だったけれど、

 「ま、さすがに
  十一月ともなれば、
  半袖でいられるほどとは
  いきませんやね。」

作物への影響も
出ているくらいで、
元気に動きやすいのだから
暖かいのも重畳…だなんて、
罰当たりなことを
思ってはならない。
第一、

 「不意打ちっぽく、
  用意もないのに
  いきなり冷え込まれると、
  風邪を
  拾いかねませんからね。」

それが一番困りますと、
眉を下げてまでという
悩ましげなお顔で言ったほど、
急に冷え込み出したこと、
ともすれば
歓迎してでもいるかのような、
そんな口ぶりとなっていた
七郎次だったのは。
どちらかと言えば
北方生まれらしいせいか、
暑さは苦手だが
寒いのはさほど堪えない
身だからでもあろう。
しかもしかも、
そんな彼とは真逆で、
母方の実家のある静岡で
幼少期を過ごした勘兵衛は、
東京の冬でも
結構 堪える身であるらしく。
そんな御主の体調管理を
預かる立場でもある
七郎次にしてみれば、
どうせずっとずっと
暖かいままなワケじゃあないのなら、
とっとと防寒態勢に入れるよう、
ぱきーっと
さが来ておくれ…くらいは
思っていたのかも知れず。

 「…アタシは そこまで
  せっかちじゃあ
  ありませんてば。」

  あ、聞こえてましたか、
  失礼しました。(苦笑)

寒いのに強いというよりも、
的確な支度を怠らない
というほうが正しいか。
もっと以前から、
朝晩の気温は
結構下がっていたのでと、
毎朝、一番最初に起き出して、
空気の入れ替えや
朝食の準備やへ、
ぱたぱたとあちこち
行き来するおりも、
カーディガンやら
薄手のジャンパーやら、
早い時期から
しっかと羽織っていた彼であり。
そんな彼でも、
ああこれはいよいよかなと
感じたのが、
紅葉の便りの話さえ
あまり聞かれなかった
十月も終盤となったころ。

 「ありゃまあ、
  やっぱり降りましたねぇ。」

こんなにも遅くに
やって来た台風と、
それに刺激された
秋雨前線が降らす
雨のせいもあってのこと。
微妙に下がり気味だった気温が
そのまま上がらず、
今度ばかりは落ち着くものか、
昼間近になっても
どこか寒々しい空気のまんまな
月末を迎えたのだが。

 「…みゃあ。」

既に夜中から台風による
強い風が吹き始めており。
その物音が気になったものか、
いつもの時間帯に
居間の猫ベッドへ
寝かしつけても、
珍しいことにはキッチンまで
トコトコ出て来てしまった
彼だったので。
ダイニングのテーブルで
資料整理に
精を出していた七郎次を、
おおおと案じさせた
小さな坊や。

 『ありゃありゃ。』

寒かったですかと、
先日編み上げたばかりの、
ふわふわな
モヘアのカーディガンを
羽織らせてやったけれど。
一緒に居間へと戻った
七郎次のお膝に抱きついて、
何とか寝ようと
してはいたものの、
時々キョロキョロと
辺りを見回したり、
小さなその身をもっと
丸めたりしていた
仔猫様だったのは。
風の音やら
家鳴りの音がうるさいからか、
それとも
夜気の肌合いが
微妙に寒かったのか。
なかなか寝付かぬ小さな背中、
よーしよーしと
いたわるようにして。
七郎次が ずっとずっと
撫でてやっていたほどで。
そんなこんなで
遅寝になってしまったからか。
いつもだったら、
門柱のところまで
新聞を取りに行った七郎次を、
玄関の上がり框のところまで
出迎えに来てくれるものが。

 「おや、おはようさんです。」

今朝は
朝ご飯の支度が整った
頃合いになってやっと、
眠たそうに
腫れぼったい目許をこしこしと、
小さなやわやわのお手々で
こすりつつ、
ほてほてとダイニングへまで
やって来た仔猫様。
冬毛へと“衣替え”が
始まりつつあるらしく、
夏場は
半袖半ズボンだったのが、
まずは上着が
長袖になったのが
先月の終わりで。
今はボトムも
裾長になっているものの、
それでもどこか
寒そうにしていたのでと。
カンナ村から
昨年いただいた毛糸を
引っ張り出した七郎次。
もはや手慣れた様子にて、
小さな坊やのその身を温める、
特製のベストやカーディガンを
編み始めてもおり。
仔猫の
やあらかい毛並みだけでは
寒かろう、
来たるべき冬場の外気へ
対抗させる準備も万端…
としただけに収まらず。

 「久蔵、こっちおいで。」






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