■寵猫抄 3

□秋色デザートvv
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 この夏は何だかとんでもない酷暑に見舞われ、そこから続いた秋もまた、いつまでも真夏日の不快な日々が居座ったため。このまま残暑がずるずると、居残りを決め込むものかと思われたものの。

 “いやにあっさりと、
  と言うか、
  やっぱり極端な格好の、
  急転直下が
  やって来ましたよね。”

 お彼岸は涼しくなりゃあいいんだろという、どこか“やっつけ仕事”ででもあるかのように。いきなり10℃以上も気温が下がり、それまでは真夏の服装じゃないと居られなかったの、嘲笑うかのような意地悪をしでかしてくれた、やっぱり微妙な この秋のお日和。その後も、平年より高めの暑さは各地にちょろちょろお目見えしつつ、それでもさすがに衣替えの10月を迎えた頃合いには、上着を必要とする朝晩がやって来て、

 “やっとのこと
  例年通りに、
  季節感を見回せるようにも
  なりましたよね。”

 色づく木の葉をイメージしてのことか、それとも郷愁や感傷を誘ってか。秋と言えばのブラウンやセピア、ワインカラーといった落ち着いた配色が、街並みを彩るディスプレイやポスター、女性のファッションなぞにも使われ始めているけれど。

 “わたしは、
  どちらかといや♪”

 覗き込んだのは、通りに面したショーウィンドウ。そこにもやっぱり、ブラウン系のディスプレイがお目見えしているものの。剽軽な笑みを浮かべたカボチャのランタンや、落ち葉を模した細工菓子に囲まれたお城は、様々なショートケーキに飾られており。あめ細工の魔女っ子や黒猫が、笑顔で“おいでよ”と手招きしているその店は。ここいらのみならずJR沿線という広範囲なエリアで、素材にこだわる季節毎のケーキが抜群と、名店として評判のケーキショップだったりし。
ガラス張りの店内は平日の昼下がりという時間帯でもお客さんの入りがよく。そうかといって、売り切れ御免という心配もないのは、営業中も厨房ではせっせと商品を作り続けておいでらしいから。さてさて、わたしもと、よく磨かれたブロンズグラスのドアを よいせと引き開けたところが、

 「カボチャは
  ハロウィンに付き物だからって
  扱いなワケで。
  やっぱり秋と言ったら、
  栗と柿とおイモ
  なんでしょね。」

 買い物が済んだばかりか、女の子たちがこちらへやって来るのと真っ向から向かい合う構えとなった。奥行きもある店内なので、ドアを開けたらいきなりドンというよな恐れはなかったが。女子高生なのだろう、お揃いの制服姿をし、それからそれから、十代の最も瑞々しい華やぎをまとった少女らが3人ほど。秋の素材を生かしたお菓子を選んでのことだろう、お喋りも弾んだまま、こちらからすりゃ入って来たドアへ、軽快に歩んで来たところだったのだが。

  ―― え?

 道を譲りながらもその視線が相手から外せなかったのは。その中の一人、ちょうど秋の味覚という話を紡いでいたところの少女へと、留まった視線が外せなくなったから。いかにも日本の学校のそれという、濃色のセーラー服をまとっていた彼女は、だが。光沢もつややかな金の髪をしており、瞳は水色。霞をおびているように見える白い頬に、壮健そうな朗らかな微笑みを浮かべ。お連れのお友達と笑いさざめきながら、あっと言う間に通り過ぎ、店からも出て行ってしまったのだが。

 “…何でああまで、
  シチさんと
  そっくりなんだろう。”

 これから原稿の打ち合わせに出向く、売れっ子の小説家せんせえのお宅の有能な私設秘書殿。七郎次さんという名前を“シチさん”と気さくに呼ぶようになってどれほどか。その金髪の美丈夫と、どこか面差しのよく似た少女だったものだから。えええっと息を飲むほど驚いてしまい、その場に凍りつきかかった林田くんだったのであり。

 “そうそう、
  そこいらにいるって
  お顔じゃあないのになぁ。”

 お名前も古風なら、実は実は生粋の日本人でもあるそうで。だっていうのに、見事な金髪に、上等な玻璃玉を思わせる青い目を持つ彼の青年は。どちらかといや精悍な風貌の島田先生より、よほどのこと文筆業向きと思わせるよな、嫋やかな容姿をしておいでで。先生の創作活動にまつわる様々な事務管理は元より、日常のお世話に住まいの手入れ、ご自身の資産としてお持ちの家作の管理のほうまでも、きっちり把握なさっておいでの頼もしさであり。優しげで玲瓏美麗なお顔や均整のとれた肢体をし、その上、武道も嗜んでいて、機敏に立ち回る立ち居振る舞いには切れがあり。

 “そして、
  ご自身そっくりの
  従姉妹までおいで…って
  ことだろか。”

 今頃気づいたが、彼女らが着ていたのは、この駅からそう遠くはない名門女学園の制服だった。だとすれば、どっかの国の外交官のお嬢様かも知れず。向こうは向こうで、生粋の北欧の女の子なのかも知れないかなぁなどと、やっとのこと、色々な“もしかして”が想起出来るまでに頭の回転が復活したところで、

 “いかん、いかん。”





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