■寵猫抄 3

□カボチャのランタン
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カボチャは本来は夏の野菜で。
ただ、
冬瓜と同じで長く保つため。
日本でも
“冬至に食べれば風邪を引かない”
なんて言われているし。
青物が収穫できない
冬場のビタミン摂取には欠かせない、
貴重な緑黄色野菜でもあって。

 「ただし、
  それを使ってランタンを作るのは、
  別の風習との習合
  というやつなのだがの。」

 「確か、
  大元はカブで
  作ってたんでしたっけ?」

ああ、
悪魔さえ騙した嘘つきジャックが、
天命を全うしたあと、
天国にも地獄にも行けなくなって。
その手に提げて、
永遠の闇の中を
さまよってたランタンって
意味だとか、と。
さすがは作家せんせえで、
詳しいところを
ご披露して下さった……
その手元では、

 「にゃあみゅっ、みぃ。」

 「ああ。ダメダメ、久蔵。
  手元に来ては危ないってば。」

リビングの窓辺に
新聞紙を重ねて広げ、
オレンジ色が鮮やかな、
それは大ぶりな
カボチャを据えると。
まずはと
ヘタの部分を水平に切って
蓋を開け、
中身のワタを、
大きめのスプーンで、
ぐりぐりと掻き出そうと
していたところ。
白い手は器用で、
繊細なことも得意だが、
実は武道も嗜んでいるせいか、
力仕事も結構頼もしくこなせて。
金の髪をうなじに束ね、
キッチン用のエプロンを装備し、
それにしては
工作用のノミやら糸ノコを
手元にそろえ、
七郎次が取り掛かったのが、

 「ハロウィンのランタン、か。」

来月10月の末日の祭事。
以前は
さほどいちいち
浚う方じゃあなかったのが、
小さな家族が増えたせいだろか、
お祭りごとへの
チェックが細かくなった秘書殿は。
まつわる料理を作る程度じゃあ
おさまらず、
こういった
デコレーションにも
凝るようになった。
そんな切っ掛けの張本人、
小さな坊やが
真っ赤なお眸々を輝かせ、
興味津々でございますと、
見るからに判る様子で
近寄りたがるのを。
大きな手で
何とか捕まえているのが、
今日はその身が空いていた
勘兵衛せんせえだったりし。

 「にゃ、みゅあっ。」

日頃は一番お好きな
遊び相手のはずが、
今日ばかりは論外なのか、
時に幼い爪を立て、
やぁのやぁの、
あっち行くのと もがいては。
七郎次が軍手した手で押さえ付け、
ガスゴス手早く処理している、
大カボチャばかりを
見やっておいで。

 「ああ、これ。」
 「みゃあう〜。」

相手は小さな仔猫ゆえ、
そうそう力も入れられず、
とはいえ、
刃物を扱う手元へ飛び出しちゃあ
双方が危ない。
全身でうにうにと暴れられては、
これこれと、
その大きい手で
何とか制していたものの。

 「ああもう、
  行ってはならぬと。」

洒落じゃあないが
小さな胴をわっしと鷲掴みにし、
余裕で床へと
縫い止めたりもするのを
見てしまっては、

 「勘兵衛様、
  そりゃああんまりじゃあ。」

母親(?)としちゃあ
さすがに忍びない光景に
見えたか、
七郎次が細工の手を止め、
訴えるような声を
出したけれど、

 「隙間だらけだぞ?
  苦しくはないはずだ。
  …っと。」

 「みゅう〜〜。」

言ってるそばから
仔猫さんが復活。
仰向けになっての、
勘兵衛の手を
まんま腹掛けのように
乗っけた格好で、
じたばたと、
ますますのお元気さで
もがき始めるくらいだから、
成程、
ちいとも堪えてはないらしい。
そのままで
勘兵衛がやわらかく指を動かすと、
脇腹や顎の下をくすぐる格好に
なったようで、

 「みゃあにゃっ、
  みゃみゃっvv」

手足を縮め、
身をよじっての
“やぁのやぁの”の方向性が、
変わったらしい仔猫さんなのは
明らかで。

 「……何やってますか、
  勘兵衛様。」

まったくである。(苦笑)



    ◇◇◇


そんな騒ぎの末に
完成したカボチャのランタンは、
そういや昨年は
まだ乾いてないうちに
久蔵が中へと入って
カボチャまみれになったんだっけ。
どこかひょうきんな
笑顔のランタン、
去年と同じく、
テラスの隅っこへと置いて
乾かすことにして。
遊びたいのと懲りない仔猫さんには、
そのカボチャを練り込んだ、
甘い蒸しパンのおやつを
どうぞと進呈。
いい匂いに惹かれ、
ぱかりと大きく開いたお口へ
運んでやれば、
うまうまvvと
満足そうに堪能しているところなぞ、
何とも罪のないことよ。

 「カンナ村のキュウゾウくんにも
  見せたいね。」

 「みゃっ♪」

 「そういえば、
  昨年は
  この時期には来なんだのか?」

 「えっと、
  わたしがアレを作った時期と、
  キュウゾウくんが
  稲刈りで忙しかった時期とが、
  丁度 重なってしまった
  らしいのですよ。」

その上、
やっぱり ああいう風に
置いてたランタンは、
雨に打たれたか虫が食ったか、
はやばやと崩れてしまって、と。
ご披露出来なんだのが残念だったと、
眉を下げる七郎次だったが、

 《 それって確か…。》

晩になって
ロウソク灯したカボチャの影の、
おどろおどろしさが
気になったらしい誰か様。

 『〜〜〜〜〜?』

傍らに屈み込んで
散々につついたその挙句、
置いて3晩目に
壊してしまったもんだから。

 《 そういう運びに
   なったようにって暗示を、
   あの二人へと
   かけたんじゃあ
   なかったか?》

だから、
キュウゾウくんが来た折には
もう無かった、というのが、
正しい“話の順番”なのじゃあ
なかったかと。
猫の姿では
なかなか大変な苦笑を
噛み潰した黒猫さん、
せめてものカモフラージュにと、
頭上を見上げたその先には、
秋の青空が
あっけらかんと広がっていた。




   〜Fine〜  2010.09.27.





ハロウィンも
定着して来たからでしょか、
催しとか関連商品とかの宣伝が、
どんどんと前倒しに
なって来てませんか?
10月末日ですよ、当日って。
クリスマスだって、
12月に入ってから取り沙汰するはずが、
とっくに話題になってるほどですしね。
 ……と、思いつつ、
こういうお話を書いてる辺り。(笑)

そうそう、
某わんぴのお部屋のお兄ちゃんとも、
お付き合いは続いているようで。

「だって勘兵衛様、
 るふぃくんたら、
 久蔵が
 サンマのお腹が苦手だって
 ことまで通じてるんですよ?」
「…省略されすぎで
 何が何やら判らんのだが。」


   詳細は 天上の海へ。 



 

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