■小劇場 3

□イ タ イ
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 *苦情は一切受け付けません。
 

ええ、はい。
勘兵衛様へ…
貴方様へと仕えることへ、
わたしの生涯をすべて懸けると
心に刻んだその折から、
どんな苦しみや痛さにも
耐えるつもりでおりました。
勘兵衛様をお護りするためならば、
この身も、命さえも賭してもいいと、
空言ではなくの心から、
そんな風に
ずっとずっと思っておりました。
勿論のこと、
判りやすく楯になること
のみに収まらず、
日頃の様々な難儀へも、
及ばずながら助けになりたいと
思っておりますし、
何かへお辛いようならば、
滸がましいことながら、
この身でお慰めしたいとも
思っております。


ですが、あのあの……。//////
そんな大きなものが
わたしの〜〜へ入るとは
思えなくって。
こちらは柔らかいところですもの、
随分と痛いんじゃないかって、
傷を負ったり、
そこから血が出て
止まらなかったりしたら
どうしましょう。
恥ずかしいことですが、
お医者のお世話になるのでしょうか。
それより何より、
あのあの…怖いんです、はい。
だって
初めてのことですし。///////


そんな…
微笑ったりしないで
くださいよう。//////
嘘なんかついておりませぬ。
勘兵衛様は、シチが、
そういうものへ
馴染み深い方だと
思っておいでだったのですか?


…な、泣いてなんか
いませんものっ。
平気です、謝らないで下さい。
ですが、それってどうしても
必要なのですか?
勘兵衛様のお傍で
大人しくしております、
絶対に離れません。
他のお方へ
眸がいくなんてありえませんっ。
え? 
他の方の眸が集まるから、
ですか?
ですが、あの、
このようなことをすると、
他のお人の眸が集まらなく
なるものでしょうか。
痛さが気になって萎れておれば、
覇気も薄まろうって
…そんなっ。///////

 (あ、や…、いやっ
 (ひゃあっ、つ、冷たいっ。
 (あ、そんな、
  力任せに掴まないで。
 (指で押し開けるなんて、
  乱暴な…
 (あ……や、怖いっ、
  やっぱり怖いですっ
 (あ、ああっ、勘兵衛様っ

い、痛っ、
痛い…いた、いたい……
痛いです、痛い、
勘兵衛様、いたい、いや…っ


「これ、大人しくせぬか。」


ですが、や…やめ、
あ……いた、
痛い痛い、
痛いですったら、あっ、痛いっ

「シチ、大人しくせねば
 却って痛むぞ。」

で、ですが、あの、あっ、
や、いやっ、
痛いですっ、痛〜〜〜〜〜〜っっ







 「……シマダ、
  シチは手首が痛いと。」

 「お? ああ、済まぬ。」

 「〜〜〜〜〜〜〜。」

 「ほんまや、せやから
  眸ぇも開けられへんかったん
  ちゃうん。」


まま、こればっかりはな。
全くの全然、
慣れがないお人には、
ただただ おっかないもんでも
しょうないて、と。
自分の連れて来た如月少年が、
その細っこい指先へ
危なげなく載せている、
小さな小さな樹脂のレンズを
苦笑交じりに眺めやるのは、
関西は神戸、
須磨の支家を統括している
丹羽良親という青年であり。

 「せやけどな、おシチ。
  これは そんじょそこらの
  コンタクトレンズと
  ちゃうんやで?」

飛騨の職人さんが
1個1個丹精込めて…と、
ちゃうちゃう。
こっちの畑じゃあ、
世界のセレブが
競うように欲しがるゆう
逸品で有名な、
○○社の特別調整室で拵えはった、
おシチにしか使われへん
カーブ仕様の特製レンズなんやから。

 「絶対に痛ないのは保証したる。」

大体、今痛かったんは、
勘兵衛様が掴んでた
手首の方なんやしと、
しょっぱそうなお顔で
苦笑をする良親が見やった先では。
その七郎次の
隣りへと腰掛けた御主様が、
最初は肩に手を添えていただけ
だったはずだのに、
ついつい逃げ腰になっていった
連れ合いの焦りに煽られたものか。
これ逃げるなと
押さえるつもりでの、
その広い懐ろへと
掻い込むだけでは足りぬとし。
掴み取っていた手首へと、
一回り以上は大きな手でもって、
予想外の力を込めてしまったが故の
大騒ぎであったらしく。
これも同坐していて見かねた
久蔵が声を掛けねば、
誰一人、何がどうしての大絶叫か、
気がつかなんだというから
穿っている。

 とはいえ

これだけの衆目の中で、
大人げなくも
取り乱しての大騒ぎを
してしまうなんて、
何事へも楚々と構えて
こなしてしまえる、
勘兵衛からの信頼も最も厚い
この青年には、
まずはあり得ぬことでもあって。

 「…七郎次?」

そんなに嫌か?と、
すぐの傍らから覗き込んで来るのは、
御主でありながら、
だのに無理強いは決してなさらぬ、
それは優しい
勘兵衛様の深色の眼差しで。

 「……勘兵衛様。////////」



ああ、皆さんがおいでなのに、
そんなお顔をなさらないで。
日頃それは雄々しくも精悍な、
鷹揚なお方でおいでなのに。
シチが我儘なだけなのへ、
そうまでのお気遣い
していただくなんて。
添わせた身の暖かさに
くるまれておりながら、
どうしてこのお顔へ
逆らえましょうや、と。
見交わす眸と眸で会話ができるほど、
何とか落ち着いたらしい
七郎次なのを見てとってから、

 「ほな、構へんね?」
 「……はい。」

まだ多少は肩が強ばっているものの、
命を奪られることじゃなし、
良親も、痛くはないからと
太鼓判を押してくれたし。
それにそれに、
試しにと如月くん自身や、
果ては久蔵に勘兵衛までもが
“こうするのだ”と
それぞれ試して見せてくれたもの。
少しほど上を向かされ、
視線だけ少し下向いて、
そうそのまま…と、
誘導された通りにした途端、
ひやりとした水と指先とが
目元へ飛び込んで来て…。

 「はい。
  そおっと目ぇつむって。
  ぱちぱちってしてみて?」

 「はい…。」

 「なんや違和感とか
  おませんか?
  睫毛入ってもたみたいな、
  チリチリとかゴロゴロとか。」

 「…ないです。」

ほれ見てみと
手渡された手鏡に映るのは、
いつもとさして変わらないお顔と
…だがだが、

 「あ、眸が黒い。」
 「あのなぁ…。」

正確には
ハシバミ色の少し濃い色
という辺りか。
そんな色になるようにという
カラーコンタクトレンズを、
この七郎次へと
装着させるためだけに、
正味1時間近くも、
宥め賺すやら実力行使に走るやらした、
皆様だったようであり。
色白なお顔には
微妙に不思議な印象を与える、
深みの増した自分の目元を、
しばし まじまじと
眺めやっていた七郎次だったものの、

 「…ですが、
  こんなことをして
  効果がありますか?」

確かにまあ、
青い眸よりは
珍しさも減るかもですがと。
まだ少々目許に潤みを残したまんま、
キョトンと小首を傾げる
宗主の恋女房からの問いかけへ、

 「まあ、
  目立たへんようにというよりも、
  何処の誰や
  判らへんようにするためやし。」




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