■千紫万紅 〜賞金稼ぎ篇 2


□月影 冴えて…
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 こちらへと宛てがわれし一通りの賊を撫で斬って。連れ合いはどうしていようかと、彼が向かった方をと伺う勘兵衛で。
前振りなしにとまず強襲して来たは、甲足軽が7体ほど。ただでさえ重い装備の機巧躯にしては俊敏なことが知られる相手なその上、随分と連係を練られた連中でもあったらしく。間近にあっての切り込んで来た手合いの向背には、思わぬ高みから降り落ちてくる者がすぐさま控えても居てと。それは目まぐるしい攻勢が連綿と襲い掛かって来。
それらに一気に取り囲まれては、さしもの双刀使いであれ、油断なくの相手をせねばならなくなり。隙のない鋭い切り結びが間断ないまま続き、じりじりと場を移しての去って行かんとしたところへ、こちらは足止めだろうか、第二陣が勘兵衛へも襲い掛かって来たという、そこまでならば巧妙だったその手筈。

“まま、あの程度の相手ならば。”

 自分がそうであったように、手間取りはしても倒されはしなかろうと。それほど切迫することもないままに、太刀を収めて進み出ようとしていた、


  それが…
  そんな気持ちの
  切り替えの間合いが、
  隙といや隙だったと
  いうことか。


 周囲への注意をまるきり蔑ろにしていた訳でなし。強いて言えば、相手の動作が勘兵衛の反射を上回っての更に素早かっただけのこと。

「…っ!」

 随分と距離のあった真後ろの茂みから、宙空へ高々と舞い上がった存在があり。そんな素早くも大きな動作と並行させて、目標へ照準を合わせての精密な射撃を放つことが出来る。そこが機巧躯の精緻さであり恐ろしさでもあろうところの、眸にも止まらぬ光の一撃。皮膚を焼き、肉をも裂かん、灼熱を帯びたる光弾が、夜陰を切り裂くようにして放たれて。それらを察知出来ただけでも人並み外れた素早い反射。だったからこそ、結果も見えた。どこへも避けることが出来ぬまま、深手を負うだろうという最悪の結末が、

 「…っ!?」

 だったというのに。その強襲、相手の意に反して勘兵衛へとは達せずに、狭間へと飛び出した者の、二の腕を裂いての逸れて終わった。向かい来る凶弾の弾道を遮って、自分の上へと重なった人影が、

「…っ。」

 撃たれた衝撃に日頃の無表情を歪め、その痩躯を撓わせての反らして見せて。

 「久蔵っ!」

 彼もまた、自分へまとわりついて離れなかった連中を、手を焼きつつも片付けて戻って来たところ。多勢を相手の切り結びを片付けたらしき勘兵衛へ、ほっとしての駆け寄りかかったその足が、途中からバネを増しての地を蹴っており。

 「…くっ。」

 刀で弾くことを構えていたものか、いや、それにしては躍起になっての飛び出し方が闇雲過ぎる。彼ほどの練達が避けようのない間合いと読んでのこと、盾になってのその結果、我が身を損ねた庇いよう。多少は防弾性も高いと聞いたが、そんな衣紋を引き裂いた一撃は、相当な代物であったに違いなく。衝撃とともに激痛に襲われたその身で、それでもそのまま倒れはせず。その場へ頽れかけた身を何とか持ちこたえると、抜き身のままでいた双刀の一方、夜陰へ向けてぶんと投げれば、

 【 ぎゃあっっ!!!】

 機械を通した耳障りな絶叫とともに、橙色をした閃光が炸裂し、忌まわしい不意打ちを仕掛けて来た兎跳兎らしき機巧躯が一体、懐ろ辺りへ細みの刀を突き立てられて。明々とした炎に飲まれての崩れ落ちていた。





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