■千紫万紅 〜賞金稼ぎ篇 2


□春寒料峭
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それはそれは華やかに、颯爽と嫣然と、
一種にて百花繚乱に匹敵するだけの
花の闇を紡ぎだし、
あでやかな春のいよいよの到来を
喧伝する主役といえば、
何と言っても“さくら”をおいて他になく。

大概の樹花が、
陽当たりの加減などから枝のあちこち、
上から南からと 徐々に順々に咲いてゆき、
半月ほどはどこかに花があっての、
長々楽しめるのに対し。
桜はほぼ一気に梢の全部で花開き、
一週間ほどの満開を経てののち、
意を合わせたかのように
一斉に散る凄絶さもまた特徴的であり。
満開の間の何とも言えぬ
豪奢で富貴な存在感と、
散るときの潔さと無情。
いかにも両極端なそれぞれの絶頂を、
媚びることなくの誇らしげに
披露するところが、
称賛されもする花であり。

青葉は後から芽吹くため、
練り絹のように奥深い色合いの、
緋白の花びらの重なりのみが、
枝をたわわに埋め尽くし。
どこまでもを桜のみにて塗り潰す、
奥行きある風景を織り成す
満開の様も圧巻だけれど。
そのたわわが限度を越えての、
ほろほろほどけ。
制する手を擦り抜けての、
止めどなく降りしきる涙雨のごとく。
わずかな風にもはらはらと、
まさしく零れ落ちて舞う
“落花”の様もまた、
観る者の心をぎゅうと鷲掴んで離さぬ、
凄絶さや寂寥、
それから得も言われぬ色香があって。

唐突に寒の戻る春先、
無情の風や冬名残りの時雨に冷たく叩かれて、
咲きそろったばかりのそれを、
無残にも散らすもよくある光景。
せめてせめて、
その盛りを誰ぞが眸に留めてから、
散ってゆければいいのだけれど…。






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