砂 時 計

□海沿いの町で
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店内に入ると古本の湿っぽいような独特の匂いが鼻に付く。


自動ドアをくぐってすぐ脇のレジにいる妙齢のおじさんが「ああまた君か」というような顔をした。



店長に顔を覚えられるのは少し恥ずかしいような複雑な気分でもある。僕は毎回本を買っているわけではない。ほとんどが立ち読み目的だから申し訳なく思う。


この本屋の店内はさほど広くはない。



漫画コーナーでは同じ制服の学生が何人かたむろしていた。コメディ漫画でも読んでいるのか何人かでページを指して笑っている。


その声にやかましいな、と思いつつも僕は文庫本のコーナーへと足を踏み入れる。



と、そこにも人が居た。



僕はその人を見てああ…と思う。



何回か見かける人だからだ。



彼は文庫本の並ぶ棚を見渡していた。ときどき手に取って表紙をみて、また棚に戻す。


彼は中を開いて本を読むということをしない。


ただ表紙だけを見て、気に入ったものをレジへと持っていく。



変わっている人だなと僕は以前から彼の行動をちらちらと見ていた。



しかもいつもレジにいる店長とも親しげに言葉を交わしている。あんな気難しそうにみえるおじさんと親しくなるなんてすごいな…と僕は密かに思っていた。


僕がぼんやりと文庫コーナーで立ち尽くしていると彼がふとこちらを見た。



彼は背が高い。ただ首回りは骨格がはっきりと分かるくらいほっそりしているし、体型的には痩身という感じだ。


歳は二十代くらいに違いない。色素の薄い少し癖のある髪を肩まで伸ばしている。


そして…整った顔立ちをしている。鼻筋はくっきりと通っているし、瞳は二重瞼で唇は引き締まっている。二枚目というやつだ。



彼は常に白いTシャツに色褪せて擦り切れた水色のジーンズを履いていたが着飾らなくとも、彼は十分に女性の目を惹きそうな外見をしている。



僕が彼を目で追ってしまうのはその美貌の所為なのかもしれない。
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