先導者
□天使の階段
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カチカチカチッ。
すっかり聞き慣れた、カッターナイフの刃の音。それに呼応するかのようにリストバンドの下の左手首がドクンと脈打ったような気がした。
(……あぁ、新しいブースターの発売日ね)
おもむろに振り返れば、レジでミサキがダンボール箱の口を切っている最中だった。聞きつけた小学生たちがぞろぞろと集まっていく。
そっと、熱を孕んだ手に右手を添わせれば、心配そうに覗きこんでくる青い髪。
「……***ちゃん」
「アイチ?」
「まだ、そんなことしてるの」
心配と、少しの嫌気。そんな視線がリストバンドへと向けられていた。
「別に平気だから」
こんな私を気にかけてくれることはありがたいけれど、心配されたところで何も変わらない。
――"PSYクオリア"を乗り越えた彼なら、どうにかしてくれるのかもしれないけど。
サッとアイチに背を向け、テーブルへと歩みを進める。
小さいショップながらも賑わっていて、対戦相手はいくらでもいた。
鞄からデッキを取り出せば、ユニットたちが私に声をかける。
私はアイチ、そしてレンと同じ能力――"PSYクオリア"を持っている。
レンとは遠からず血が繋がっていたから遺伝か何かだと思っていたけれど、そうではないらしい。
皆は「強さ」に固執することで出現するというが、私にはそういうつもりは毛頭なかった。
しかし執着こそないものの、"PSYクオリア"を手に入れてから私は十中八九で圧勝。
なかなかレンのように安定させることはできないものの、ファイトに勝てることが嬉しくないはずがなかった。
……なのに。
(何なんだろう、この……空虚な感じ)
確かに勝っているのに、何も心に湧き上がるものがない。
負けても、悔しくもなんともない。
心に収受されるのは、ただ虚しさだけ。
もうファイトなんてする気分じゃない。私はそそくさと店を後にした。