先導者
□熱中症にご注意ください
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ある日の放課後。
委員会の仕事で居残りをしていた***は、相も変わらず“彼”にちょっかいをかけられていた。
「なぁ、まだ終わんねーのー?」
むすっと口を尖らせて言うのは三和タイシ。***のいわゆる彼氏だ。
「そんなこと言うなら手伝ってよ!あと斜め座り危ない」
「え、今、心配してくれた!?」
「うん、タイシが倒れ込んできてプリントがグシャグシャにならないか。心配」
途端に盛大な溜息が教室に響き渡る。笑ったり落ち込んだり、忙しいやつだ。
しかし、なんだかんだ言いつつ、***も今の状況を楽しんでいた。
「あ、そうだ!」
唐突な大声に***が怪訝な視線を三和に送る。
それにちょっと苦笑しつつも、また普段の明るい表情に戻って、何かすごい豆知識でも披露するかのようにピンと人差し指を立てて、三和が口を開いた。
「熱中症ってゆっくり言ってみて!」
「……は?」
七月も半ば。エアコンの入っていない教室は暑い。しかしそんなこと、すっかり忘れていたというのに。わざわざ思い出させるような三和の言葉に、***は今度こそ露骨に眉間に皺を寄せた。
「アンタが既に熱中症じゃないの」
「ピンピンしてるし!いいから、ほら」
何を思っているのか、しつこく催促する三和に、仕方なく口を開く。
「ねっちゅーしょー?」
「もっとゆっくり!」
注文が多いな、おい。
「ねっ、ちゅー、しよー……なッ」
自分の言わされた言葉の意味に気付いた私は、思わず持っていたペンを取り落とした。カシャンと音を立てて床を転がる。
そんな***を見て三和は満足そうに微笑んだ。
というより、イタズラが成功した子供って感じ。まぁ、まさにそれなんだけど。
「ふ、ふざけないでよ、馬鹿!」
「えー、ふざけてないしー」
***が手近にあった消しゴムを投げつければ、パシッと音を立てて受け止めて、また元の場所へ戻す。
あぁ、腹が立つ!こいつがこんなに余裕綽々なんて!
「ねぇ、***ちゃん。ちゅーしていい?」
「……勝手にすれば!」
ふわり、重なった唇に、いっそう体温が上昇した。
end.