先導者

□ふくさよう
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その連絡が私の耳に入ってきたのは、1日ぶりのお風呂から出て、お肌の手入れをしドライヤーをかけおわらせたころ。
三和くんから電話がくることは珍しくなかった。あの明るい性格、人柄、人懐こさ。櫂くんやアイチくんや、カードキャピタルで知り合った人々と遊びに行く機会も少なくなかったから。もっとも、櫂くんは私か三和くんが無理矢理連れてこないと出てこなかったんだけど……。
すっかり見慣れた名前が表示された携帯を取ると、私が一言発する間もなく、三和くんが喋りだす。

「***ちゃん?櫂が風邪で倒れて」

最後まで聞くか否か、私は立ち上がってコートに手を伸ばした。が、携帯からストップ、ストーップと声をかけられ、また腰を下ろす。

「今、外出ようとしただろ!***ちゃんも風邪っぴきの身なんだからちょっとは自重しなさい!分かってる分かってる、どうせ自分のせいだとか言うんでしょー?まったく、このカップルはホントに!」

意味深な言葉とともにブチブチと始まった三和くんの愚痴を容赦なく遮った。

「あぁ、ごめんごめん……で、櫂のことなんだけど、***ちゃんが気にする謂われはないよ」

「でも、昨日、櫂くん……」

キス……のことは、当然言えるはずもなく。私は優勝報告に来てくれたからそのときに、とだけ告げる。と、三和くんがまた呆れた声を出す。

「2人に何があったは聞かないし、まぁ想像つかなくもないんだけど、櫂が風邪ひいたのはそのときじゃないんだってば」

「……え?」

「あー……先に言っておくけど、まず看病とか行くなら絶対明日以降から。それから今日はまだ電話かけないこと。あ、今は俺が面倒見てるから安心して」

急に真面目になる三和くんの声に、私は思わず居住まいを正す。
そして、三和くんが教えてくれたことは。

「な、何それっ」

まず、櫂くんの調子が悪かったのは私が倒れる数日前からだということ。そんな素振り全然見せないから気付かなかった。学校でも一緒の三和くんですら気づかなかったのだから当然だ。
更に、自分も調子が悪いのに無理を押して大会に出たこと。というのも、今回の大会はアイチくんの受験が被ってしまって、人数が足りなかったから。

そして、私はもうひとつ腑に落ちたことがあった。それは、櫂くんの最近の様子のこと。
急に積極的になったり、あのポーカーフェイスな彼が頬を染めるなんて。もしかしたら、そのときからだいぶ症状は酷かったんじゃないだろうか。
三和くんの前置きがなければ今すぐに家を飛び出しているところだった。

「だから、***ちゃんの風邪も元はと言えばコイツが……」

そう三和くんが言いかけたとき、携帯を通じてゴホッという咳込む声が聞こえた。

「櫂くんっ」

「あー、じゃあ、明日からは***ちゃんに頼むな、コイツのこと」

「……はい」

そこで三和くんからの電話は切れてしまった。



「なんか俺が2人の間を断ち切ってるみたいでヤだった、今の電話!」

文句を言いながら水の入ったコップを片手に三和が部屋へ入ってくる。
俺の頭にガンガン響いてることなんかお構いなしで、これは多分、結構本気でイライラ……というより、モヤモヤしている。
明日までの辛抱!なんて言ってるが俺には何のことだかさっぱり分からない。というより、頭が重くて上手く考えることができない。

「じゃ、明日も学校あるから帰るけど、絶対起きるなよ、おまえらカップルはホントに!」

薬とペットボトル1本分の水を運んでくると、三和はそそくさと出て行ってしまった。

「……なんだったんだ」
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