復活

□Salute.
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その日は***にとって、とても大切な記念日だった。
自分と「もう一人の主役」が帰ってくる確信はなかったけれど、小さなケーキを2つ買って帰った。

その人は、零時を告げる時計の鐘と共に帰ってきた。


「ただいま」


梅雨だし雨でも降っていたのか、少し水を吸っている上着を***に手渡す。
***は今日一番の笑みで上着とその人を迎える。


「おかえりなさい」


数日ぶりの再会に何を言うでもなく、ただ机のケーキを見ると物言いたげに***の方を振り返った。


「今日が何の日か覚えてますか?」

「あぁ、覚えてるよ。君が僕に泣きついてきた日」


いつまで経っても変わらない、ひねくれたその性格。
でも、強ち間違ってなかったりもするので何も言えずに苦笑いをする。


「たかだか1年だから、そんな華やかにお祝いをするほどでもないと思って、小さいケーキだけにしたんです」

「そう」


***が言い終わる前に、その人は既に腰を下ろしている。
***はそれを見るとグラスとフォークを持って、向かいの椅子に腰を下ろした。


「1年間、見捨てられなくて良かったです」

「僕が見捨てたら、もう誰も拾ってくれないでしょ」


ケーキを口に運びながら、その人は言う。
こんな棘のある言い方にも慣れた。どうせ本心じゃないでしょう?

沈黙に、グラスにジュースを注ぐ音が心地よかった。


「Salute」

「…ワォ、どこで覚えてきたの?」

「本棚にイタリア語の本が置いてあったので」

「Salute」


カン、と硝子のぶつかる音が響いた。


Salute.


(2人で刻んだ1年という時に)(乾杯)

end.
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