復活

□究極の選択。
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「待ちなよ」

「…What?」


今にも床に着きそうな黒いマント。

勢いよく回れば高く遠く舞い上がり、それは彼の目の前までやってきた。

彼はそれを素早く手に取り、自分の方へと引っ張っていたのだ。

歩みを遮られた魔女は、渋々振り向き、問う。

一瞬、不思議そうに彼を見ると、首を傾げた。

それを見ると、彼は、


「Trick or treat」


妖しく微笑み、そう言った。

お菓子をくれなきゃイタズラするぞ。


「……はい…?」


魔女は状況を理解できず、また首を傾げた。

何故って、甘い物を好まない彼の口から、そんな言葉が出るなんて思っていなかったから。

驚き、硬直していると、「アホ面」という彼の声で我に返る。


「本気と書いてマジですか、雲雀さん」

「今日はそういう日なんでしょ?」


そうですね、としか返せなかった。

しかし、自分にその言葉をかけられるとは思っていなかったので、お菓子なんて欠片も持っていない。

唯一のキャンディーも、今となっては口の中。

他の人の所には今から行くつもりで、放課後なら両手いっぱいにお菓子を抱えていたんだろうな、と思った。


何も無いとは分かりつつも、ポケットを探る。

案の定、ハンカチとティッシュ、キャンディーの包み紙が入っていただけなのだった。

お手上げ、と、そんなポーズを取れば、彼はまた嬉しそうに。


「そのお菓子か、イタズラか。どっちが良いかな」


彼は言うのだが、魔女には心当たりが無い。

確かにポケットには何も無かった。

手にも握ってはいないし、自分の体を見ても、お菓子と言える物は無い。


「あの…雲雀さん、そのお菓子とは…?」


降参と言わんばかりに問うと、彼は何も言わず、自分の唇に指をやっただけであった。


(唇…?)


魔女も同じように、唇に触れる。

プン、とキャンディーの甘い香りが広がっただけであった。


「…キャンディー……?」


考える。

もしかして、彼の言う"お菓子"とは、これのことなのか。

だとすれば………、その意味を理解した魔女は、ボッと顔を赤らめた。


「ひひひひひひ雲雀さん!!?」


今にも逃げ出したい気持ちだったが、しっかりとマントを掴まれていて、それは叶わず。


「お菓子かイタズラか、決まった?」



ある学校での、ハロウィンの日の出来事だった。



究極の選択。


(来年も楽しみだね) (来年はもうしません…)


end.
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