水蜜桃。
□一章
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大きな大きな木製の扉の横についた、古いインターフォンを押す。
ぴんぽーんと籠った音が響き、
「ふぁいふぁい」
妙に間延びした声が室内から聞こえた。
西日が照らすその何百年も前からそこに存在していたような無駄に大きな洋館。
僕が小学生だった頃は肝試しに使われるようなお化け屋敷だったんだけどねぇ、と感傷に浸ってみる。
そんな家に一人で暮らそうとする変わりものの女子高生が、僕の隣の席の方なんだから。
はて、それにしてもふぁいふぁいの返事から約20秒が経過したのですが。
……あれ。
もう一度インターフォンを押してみる。
「ふぁっ、ちょっとー待ってくんろさいねー」
どうやらお忙しいらしい。
なんか迷惑だったら申し訳な扉が開いた。
鼻がーんした。
頭ずどーんした。
目から水が零れた。
勢いで思わず一歩後ろに下がってしまった。
「はいはい、お待たせしましたーって。あり? どしたの? お客さんどうしてそんなところで悶絶していらっしゃるの?」
「う……あー」声が出ねぇっす。
「おーい、大丈夫ですかー。あ、そだそだ、そういえば何の用かなっ?」
そして洋館から出てきた少女はにょはっ、と笑う。
「あ、れ?」
彼女の顔を見て、首をかしげる。
長くて綺麗な髪がぐっしゃぐしゃに破裂して、右手に煎餅を握っている彼女は、
「――……誰?」
僕の知っているはずの彼女では、なかったのだ。