(隙あり!/てる・ちえ)
「ね、キスしよ」
なんでこの人は人前で。
「むりです。」
有り得ないことを言うのかな。
「なんでー」
「嫌だからですよ。」
「ぶー」
膨れてみせてもだめだって。
第一此処はお稽古場。
「てるさんにときめいてる下級生が泣きますよ」
「いないよそんな人」
いや五万といますよ。
「なー」
ちえさんに後ろから話し掛けられる。
「はい?」
振り向いた、その瞬間。
(柔らかな、感触。)
「隙あり!」
「…!」
茫然としている私を強い力で引き寄せて。
「ちえさん…」
と睨みをきかす、てるさん。
「はっはっは、」
と笑いながら去る、ちえさん。
その無邪気な笑顔を見たあと、
今夜は眠れないと小さな覚悟。
(ねー)
(はい?)
(今夜、開けといてね? ニコッ)
(…)