Novel

□黒猫堂へようこそ
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夏。

それは…セミが鳴き、太陽が燃える蒸し暑い季節…
誰しもが涼しい場所を求め歩きまわる。

ここ、黒猫堂のマスターも、歩きまわらずともカウンターの上で死にかけていた…







「あ"ち"ぃ〜!!どーにかしてよ〜………マスター!!」

「うるさい、睦月(ムツキ)。騒ぐな。余計暑くなる」

睦月がヒマワリ柄のうちわで顔を扇ぐ。

「だって〜〜!」

「睦月、シャーベットでも食べますか?」

「苺味がいいー!結梨さん気が利く!」

「マスターも入ります?」

「レモンだ、結梨音(ユリネ)」

「はい」

結梨音はカウンターの奥へと消えて行った。


「睦月、クーラーのスイッチ入れていいぞ」

「え…いいの?」


睦月の茶色いショートヘアーから、汗が滴る。


「あぁ…但し!30分だけだそ!客が来ない限り節約していないと、食う物も無くなるからな」


「うん。わかってる〜」


「はい、お待たせ致しました」


結梨音がお盆にシャーベットを乗せて持ってきた。


「ありがとー!」


「睦月、服にこぼさないで下さいね。マスターは、食べないのですか?溶けてしまいますよ」


「アハハ!!なんか、お父さんみたい!」


「おい…結梨音」


「はい。なんです?」


「お前………なんで、汗一つかかないんだ!?」


「………それは、私だからですよ」


結梨音がクィッと眼鏡をあげた。


「なんだ…?その間は…」


「それにしても、お客が入って来ないですね。」


「話を変えるな。でも、まぁ、そうだな…街角の喫茶店ほど入りやすいとこはないだろうに…」


「ふぃ〜!涼しい〜!結梨さん、おかわり!」


睦月が口の周りに苺シロップを付けたままカップを差し出す。


「睦月、頭痛くなるぞ」


「大丈夫!あたしは強いも…ぁあ"〜!頭キーンってするぅ〜!!」


「バーカ」


「マスター、そろそろクーラー止めますか?」


「そうだな」


結梨音がクーラーのリモコンを取り出し、クーラーへ向けた。


カラン、カラン、カラン…


結梨音がスイッチを切る直前に喫茶店の扉が小振りなベルを鳴した。


「あのぅ…」

扉の外から小さな女の子が顔を出した。


「いらっしゃいませ。どうぞ、中へ」


結梨音がクーラーのリモコンをカウンターに置き、少女に中へ入る様に薦める。
少女はゆっくりと中に入ったが、扉の前に立ったままでいた。


「あの、ここって喫茶店ですよね!?」


「はい。普通の喫茶店ですよ。」


「あ…じゃあ、アイスコーヒー1つ下さい」


少女はカウンターの席に座った。


「お一人ですか?」
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