夢見る子供たち

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好きだったの。

大好きだったの。

全てを知った今だって、愛しているよ。

けれど。

君はもう、私を愛してはくれないのでしょう。

「ねえ、そうでしょう、人識」

ふふ、と微笑みながらそう零す。

私の目の前、手を伸ばせば届く距離にいる君は、訝しげに眉間にしわを寄せた。

「何笑ってんだよ」

まるで少年のような、心地よい声。

この声はもう、聞けなくなるのだろうか。

「私ね、」

そう呟いて、一層笑みを深くする。

「頭では君を殺さなきゃいけないって分かってる。けど、心が拒否するの。笑っちゃうよね」

そう聞いても、君は、いつものようには笑ってくれなくて。

眉間に刻まれた皺は、解けないまま。

「まだ私の心は、君のことを愛してるみたい」

少しおどけてそう言ったら、その瞬間に私の喉元に小ぶりのナイフが突きつけられていた。

あとほんの数ミリ動かせば、私の首の皮は切り裂かれてしまう。

大好きな深く濁った紅い目が、私を射抜いている。

それすら心地よいと感じてしまう私は、やはり狂っているのかな。

「俺は、お前が。嫌いだ」

憎しみが滲んだ声で、君がそう言うから。

私の心は、酷く深く抉られる。

人を愛せず、憎み、虐殺するはずの無崎である私が。

零崎の対になる無崎一賊の私が。

たった一人の、それも零崎の人間の言葉に、傷つけられているなんて。

ああ、なんて馬鹿馬鹿しい。

そして、なんて哀しいのだろうか。

本来殺し合わなくてはいけない二人が、出会い、愛し合う。

全てを知った二人は、今まで一賊がそうしたように、今度は殺し合う。

愛し合っていたことを、忘れて。

「それじゃあ」

私はすっと服の袖からするりと小刀を取り出し、君の首にあてがった。

それを見た君は、少しだけ口を歪ませる。

「君を憎んで痛めて苦しめて辱めて、殺してあげましょう」

「お前を殺してバラして並べて揃えて、晒してやんよ」

二人同時に、台詞を吐く。

刹那、全てが終わった。

全身を、切り裂かれる感覚。

私が殺してきた人たちは、こんな感じで死んでいったのかな。

死が近づくのを感じながら、私の脳は驚くほど冷静だった。

今日、君に会う前からずっと決めていた事だからかな。

「・・・なんで」

君の、怒りに満ちた静かな声が聞こえた。

痛む顔を無理やり動かすと、君の苦しそうな顔が見えて。

一瞬、悲しんでくれているのかな、なんて期待をしてしまう。

「なんで、何もしねえんだよ・・・っ」

哀しそうなその声に、私の心はまたずきりと痛む。

「・・・・・・だって、」

掠れた声を、必死に絞り出す。

あ、いけない。

私の瞳から、一筋の涙が零れ落ちて頬を伝う。

「だって、まだ、愛してるもの」

君を一目見たときから、今までずっと。

そしてこれからだって。

「わたし、貴方を殺す、くらいなら。死を選ぶよ、人識」

好きなの。

大好きなの。

愛しているの。

だから、君を殺すくらいなら、私が君に殺されるよ。

ばいばい、人識。

愛しい時間を、ありがとう。

願わくは、次は君と一緒に居られる世界に。

遠のく意識の中で、私は。

愛しい君の、愛してる、を聞いた気がした。







(よかった、きみはまだ、)

(わたしをあいしてくれていた)
 

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