夢見る子供たち
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「魂の端っこを握られるのと同義なんだよ」
今時珍しい渦巻きキャンディ(という名称なのかは定かではないけれど)を手に、
彼女はそう言った。
ぼくの部屋にはその甘ったるい匂いが充満していた。
一体何の話をしていたのか、と首を傾げてから、ぼくが繰り返されたとある質問をしたことが皮切りだったと思い出した。
「陰陽師だとか魔術師だとかは、真名を知るだけで他人を呪えたんだよ。まぁ事実かどうかは知らないけど」
「戯言だね」
いえいえ、高望みし過ぎて戯言にすら成れなかったゴミ屑ですよ。そう言って嗤った顔は、蒼色の彼女に、赤色の彼女に、よく似ていた。
「あれれ、私を誰かに重ねてる?
駄目だよ。歪んじゃうよ」
一体何が歪むというのだろう。彼女の言葉は難解に哲学的なくせに、容易にぼくの中へと入ってくる。
それは不愉快な反面、どこか安心する。
そう伝えると、彼女はどうしようもないくらいに可笑しそうにきゃらきゃらとけたけたと声を上げて笑うのだった。
「難しく考えすぎなんじゃない? 貴方は自分の言葉にイミが無いと思ってるみたいだけど、実際どんな偉大な人間の言葉にだって大したイミは無いよ」
「随分知った風に言うんだね」
「うん? 気に食わなかった?」
驚いたように笑んだ彼女は、なかなか減らないキャンディをまた一舐めした。
「別にそういうわけじゃないさ。ぼくの心は、地球並みに広いって言われてるんだぜ?」
「へぇ、じゃあ核兵器何個で滅びるかな」
おい。
にこ、よりもふふ、よりもにや…という純粋さや可憐さの欠片もない暗鬱な笑顔で指を折って数えはじめる。
非常に怖いんですが。
「あーまぁ、多少話が逸れた気がするけど、いいか」
「良くない」
うんうん、と一人で納得して頷く彼女にぼくは言う。その際に心狭いじゃーんとか聞こえたりなんかしていない。絶対していない。
「だって我が儘だよぅ、それ。自分がやらないモノを他人に求めないでよ。なーいしょないしょ」
しぃー、と幼児に対してやるような真似をぼくに向けてする。
年下にコドモ扱いされるぼくってなんなんだ。
そんなぼくの葛藤なんて微塵も感じ取らない彼女は、あわわ髪が飴にくっついたよー、とか嘆くのだった。
「…んじゃあ、飴からの脱出も完了したことだし、そろそろおいとまするのだよ」
「結局今日も教えてくれないんだね」
「人に聞くときは自分から、だもーん。貴方が教えてくれたら私も言うよ」
またね、と彼女は手を振って、去っていった。
「………またね、」
誰もいなくなった部屋で、ぼくは呟いた。
名前も知らない彼女は、こうしてぼくから退屈を奪い、帰っていく。きっとそれは、両者の疑問が解けるまで続くのだろう。
だからそれは、永遠に。
ねぇ、君の名前が知りたいな
それはぼくの言葉であり、彼女の言葉だった。
果てしなく無意味なぼくらのやり取りは、一体何を得るものなのか。知りたくて彼女に問うと、やはり楽しげに笑って言った。
「それは自分で考えなきゃ。意味なんて自分が作るものでしょ?」
突き放すでも受け止めるでもないその言葉は、ひどく心地良かった。