イナズマ

□回想
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※甘くないです。苦くもないです。←

「理不尽」

こんな言葉考えたことすらなかった。
そんな余裕すらなかった。

ただひたすらに毎日、毎日特訓を重ねた。
基山ヒロトたるべき存在であるために。
父さんに愛される資格のある人間となるために。

理不尽だなんて考えたくも無かった。
なぜ養子として迎えられたそれだけで血反吐を吐くような練習をしなければならないのかなんて。
思ったら最後きっと無意識に壊れてしまうことを悟っていた。
なぜ?そんな言葉を抱いたって俺が特訓をやめられる手段には結びつかないのだから。

じゃぁなぜいまさらこんな過去のことなんて考えるのか。今まで俺がしてきたことは俺にとって無意味なことだったのか。

「ヒロト?どうしたんだよ、ぼんやりして。」

休憩時間のはじめに配られたスポーツドリンクを片手に持ったままの守が知らないうちに隣にきていた。

「具合でも悪いのか?」

不思議そうな声音で不思議そうにたずねてくる。彼はいつだって自分の感情に正直だ。
いや正直でしかいられないのか。
そこが俺が彼に興味を持った理由。
それが俺が彼を好きになった理由。

「いや別に、少し考え事をしてたんだ。」

「考え事?」

「そう考え事。」

もしも俺がサッカーをしていなかったら、守とは一生会えなかっただろう。
もしも俺がきつい練習を積んでこなければ、守と同じ場所でプレーすることなんてできなかっただろう。
円堂守を知って好きになることも無かったし、守が基山ヒロトを知って好きになってくれることもなかっただろう。

「守に会えてよかったって。」

昔の辛い経験は消えないし、消す必要は無い。少なくとも辛いことばかりではなかったし、今の現状は幸せなものだ。

守はきょとんと目を開きぱちぱちと瞬きをしたあと、そっかと言って笑った。

「俺も会えてよかったぜ!」

この眩しい笑顔がこんなに近くで見れる今があることに少しだけ昔の自分にありがとうと心の中で呟いた。




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