イナズマ
□俺達の始まり。
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大好きな人が泣いて走っていくのを見た。気付いたらその背中と追いかけっこをしてた。体が勝手に動いた。
「円堂さん!」
夕暮れの川原、立ち尽くす貴方が悲しくて俺は一生懸命名前を呼んだ。
「立向居・・・」
振り向いた顔は力なく、いくすじもの涙の後が残っている。あなたの泣き顔を初めてみた。なんとかあなたを元気付けたくて俺は懸命に言葉を紡ぐ。
「元気、出してください!」
嗚呼、なんでこんな陳腐な言葉しか浮かばないのだろう。
元気なんて、出せる訳ない。
「でも、俺。」
辛そうに顔を背けるあなた。ええ、わかってます、解りますよ、でも!そんな悲痛そうなあなたなんて見てられない。辛いなら俺を頼って。喩えあの人を裏切る行為だとしても。貴方が壊れくらいなら。そんな気持ちを込めて叫んだ。
「俺がいますっ!
俺が傍にいますから!
大丈夫です。
ヒロトさんがいなくなったって円堂さんを一人になんてしません!!」
あなたのほうけた顔が俺を見つめる。
どうか俺の気持ちが届いて欲しい。
「立向居・・・」
解って欲しい一心で精一杯の気持ちを全部ぶつける。
「だからっいつもみたいにわらってください。」
感情が爆発して泣きそうになった。けど泣きたくない。泣きたいのはこの人だと知ってるから。
「俺は、わらった円堂さんが一番好きなんです!
だからっ!」
涙まじりのがらがら声。
正直格好悪くて苛々する。けど伝えなくてはならない。いまこの人を離しちゃ、いけない。
「ごめん、立向居。」
いつの間にかあなたが目の前に来ていた。
ポンポンっと頭を撫でられる。
「格好悪いとこみせちゃったな。」
ははっとあなたは軽く笑った。いつものあなただ。
「こんなに泣きそうな顔させて、ほんと、ごめん。」
優しくあなたは頬笑んだ。
「うっくっうっえんどっさっ!!」
何かが決壊したように涙が後から後から、溢れてくる。泣きたくないのに、辛いのはあなたなのに。ほっとして我慢がどうしても効かない。
「ありがとな。」
ふわり、と包み込むように抱き締められる。あやすように背中をとんとん叩かれた。
「お前が居てくれて良かった。」
その言葉は俺にとって最高の褒め言葉で、益々泣き止めなくなってしまった。あなたの制服の肩口を俺は涙で濡らしてしまう。
「全く、立向居が泣くことないのにな。」
ははっとあなたが笑う。
「わらうっことっないじゃっないでっすかっ!!」
「ごめん、ごめん。でもなんか可笑しくてさ。立場、さっきと真逆だなぁって。」
「たしかにそうですっけど!!」
怒ったまま膨れてみれば、あなたはまた悪い、悪いといいながら俺の頭をなでる。沈黙が流れる。けれどもそれはとても暖かなものだった。今なら言える。言ってしまいたい。あの人への裏切りとも知りながら、俺はその言葉を言ってしまう。
「好きです、円堂さん。」
「ああ。」
髪を撫でてくれる貴方の手が心地良い。
「ずっと大好きなんです。」
「そうだったんだ。」
「はい。」
暫く沈黙が続いたあと円堂さんが口を開いた。
「俺さ、ヒロトが好きだ。」
「知ってます。」
ずっと円堂さんを見てきたのだ。基山ヒロトという人物が雷門にきてからあなたが彼に惹かれいくのがわかった。彼もあなたに惹かれていて、二人は両思いなんだと理解したとき、はじめは嫉妬やどうして、という気持ちがあった。けれど見ているうちに綺麗に笑う彼の笑顔や、ボールを蹴る時の滑らかさ、それに彼のさりげない優しさだとか、知ってしまって好きに、なってた。だから、大好きな彼らが一緒になったとき嬉しかった。
幸せでいてくれるならそれでいいと思った。でも、そうでなくなってしまうのに黙っていることなんて俺にはできなかった。罪悪感なんて気にならないくらいに。
「それでいいんです。あなた達が幸せなら。俺はあなた達が大好きなんです。」
「本当なんだな?」
「嘘なんて付きません。」
そっか。といってあなたはそっと俺を離し、視線を合わせた。
「少しだけ、待ってくれないか?」
その目はいつになく真剣で、真摯だった。
「待つも何も、俺はずっとあなた達が好きですから。」
「ありがとな。」
そう言ってあなたはぎゅっと俺を優しく抱き締めた。
「俺達、立向居に話さなきゃならないことがあるんだ。」