おもちゃ箱
□SS
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「ごはんを食べよう」 From みぎわ蓮さま
小さい頃から「食卓」は、広いものだと思っていた。
食堂と呼ばれる部屋には、マホガニー色の長方形の長いテーブルがあった。
おそらく両サイド合わせて20名は着席出来る立派なテーブル。
そのテーブルの中央には、いつも美しい季節の花が飾られていて主に、母の好きな豪華な薔薇の花が飾ってあったのを覚えている。
俺は、その長くて広いテーブルの一番上手から右側の一番目の席に座らされていた。
父と母と食事を一緒にすることは、まず少ない。
だから、大概は料理を運んで来てくれるメイドと、食べる自分を見守る執事の三人だけ。
それでも、料理長は、そんな俺の境遇に気を使ってくれていたのだろう。
料理はいつも子供の好きそうなメニューが並んでいた。
食べると「美味しい」と思って、ふと、顔を上げるが、それを言う人がいない。
左側を見ると、誰も座っていない広いテーブルが続いていて、薔薇の花が見えた。
だから、小さい頃、「食卓」は、とても広いものだと思っていた。
「どう?美味しい?」 ふと、顔を上げると目の前に、にっこり微笑む成瀬さんの顔がある。
「・・・」 もの凄い至近距離だった。
俺は、思わず硬直してしまう。
「あれ?美味しくなかった?」
微笑が、心配そうな顔に変わる。
俺は慌てた。 今、口にした成瀬さんの手製のポトフは、とても美味しい。
コンソメ味なのだが、とても口当たりが良くて濃くがあって深い味わい。
まるで、三ツ星レストランで出される黄金色のコンソメスープのよう。
だから、本当は開口一番「美味しいです」と言うつもりだったのに・・・。
「い・・え」
それだけを言うのが精一杯だった。
「そう?一応味見はしたし、遠藤好みの味付けにしたつもりだったんだけどね」
成瀬さんは、うーん、と考え込みながら自分の分のポトフのスープを飲む。
「・・・自分で言うのも、なんだけど、まぁまぁじゃない?」
成瀬さんは、また、至近距離で俺に尋ねた。
「あの・・」
頬が熱い。
こんな食事の仕方は始めてだ。
「ん?」
「美味しい・・ですけど・・その、もう、少し顔・・・離してくれませんか?」
「え?」
「顔・・・近いです」
やっとのことで、俺は言う。
「え・・?そう?」
そんな俺の気など知らずに、成瀬さんは不思議そうに俺を見ている。