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□栄養
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それは、暖かいとある春の日のこと。




栄養






「………おい、ヴィンス」
今、俺はヴィンセントに珈琲を持って戻ってきたところだった。
客人であり弟である、ヴィンセント=ナイトレイはソファーですやすやと寝ていた。
「起きろ」
肩を揺さぶるが、起きる気配はない。
今、彼の上にいるチェイン、「眠り鼠」の影響らしい。
「……………珈琲が冷める」
両手のコーヒーカップをテーブルにそっと置く。
……………暇だから寝顔でも見ておいてやろう。
起きる気配が全くないヴィンスの頬をつつく。
「………………寝てればいいんだがな」
口を開くと「兄さん大好き兄さん大好き兄さん大好き兄さん兄さん兄さん(略)」だ。寝てればいいのに、とつい思ったりもする。
いや、まあ、好意を寄せられるのは嬉しい。だけども………
「…………兄、さん」
びくっ。つついていた手を止める。どうやら寝返りをうっただけのようだ。
様子を見る。よし、まだ起きそうにない。
その瞬間。
「わっ…………!?」
突然ヴィンスに抱きしめられる。実は起きてるんじゃないのか?
でも、まだすやすやと寝息をたてている。これが狸寝入りなら役者になれるぞ。
「………………兄さん?」
「………やっと起きたか」
ヴィンスが目を覚ましたようだった。しかしまだ解放されない。
「おい、放せ」
「…………………………」
「ヴィンス?」
ヴィンスは固まったままだ。まさか、また寝たのか?
「……………………い」
「ん?」
「……兄さんが足りない」
なんだそれは。意味がわからん。
「兄さんは僕の栄養分だから」
「………とりあえず放せ」
「いやだ」
腕の力が強まる。そして、2人の距離は徐々になくなっていく。
「放せ。話があるんだろ?」
「あるけどどうでもいい」
「おい」
あと、30cm。15cm。10cm。
6cm。4cm。………………
「ーーーーーーーーーーー!?」
2人の唇と唇の距離はなくなり、キスするような形となった。
わずかな隙間から、ヴィンスの舌が侵入する。
「んー!んーー!」
どんっ、と肩を押してなんとか逃れた。
「…………ごちそうさま」
笑顔でそう言うヴィンスに俺は。
「……………早く用件を言えっ……」
顔を真っ赤にさせそう呟くしかできなかった。



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