GX

□I swear eternal love to you.
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「十代は、永遠の愛を信じるか?」

 唐突にそんなことを言われたんだったと思う。
 卒業してからヨハンはプロデュエリストとして活躍し始め、瞬く間に有名になった。かくいうオレは、根無し草の日々を送っている。
 確か、8月いっぱいかけて行われるヨーロッパのデュエル大会に参加していた時の事だ。開催期間が長いのでヨハンの家に泊らせてもらう事にしたオレ。ユベルが一方的にヨハンの事を嫌ってはいたが、その一カ月は夢の様に幸せな日々だった。それも今日で終わりだ。大会は終わった。オレはまた明日から旅に出る。
 

「なんでいきなりそんなこと聞くんだ?」

 ヨハンはカードを弄る手を止めてへらりと笑った。こういう時、彼の本心は掴みづらい。何年たってもそれは変わらなかった。

「何となく。気になったからさ」
「ふうん」

 永遠。なんて重くて軽い言葉なのだろうか。
 オレはユベルと超融合してから、古びて動かなくなった時計の様に青年から先に進むことが出来なくなった。年々開いていく友人たちとの身長。必ず訪れる永遠の別れ。
 きっと叫びだしたくなるほどに想いは積もり、この身を引き裂いていくのだろう。伝えたい想い。だが、伝えるべき相手はいない。そんな未来はきっとすぐそこだ。

「永遠の愛、なんて信じられないな」

 カードを纏めながら呟いた。夜の静寂に重く響く。
 視線だけをヨハンに向けると寂しそうな顔をして、こちらをじっと見ていた。顔を上げてまるで弁解するかの様に言葉を連ねていく。

「ほら、だってオレ死なねえしさ。ずっと生きてりゃあ他の人を好きになるかもしれないし」

 ヨハンが生まれ変わっても、オレのことを覚えている筈が無い。「初めまして」ってにこやかに笑って握手をするんだろう。そこに愛だの恋などの感情は存在しない。それに、オレだけがヨハンを愛し続けていても、それは“愛”じゃなくて“恋”だ。だから、永遠の愛なんて無い。
 長々とそう言うと、ヨハンはオレを抱きしめて「バカだな」と囁いた。ヨハンの腕の中はいつもあたたかくて安心する。まるで小さな子どもをあやすように、背中をぽんぽんと撫でられる。それが気持ちよくて、目を閉じた。母さんに愛してもらっていたころは、きっとこうしてあやされていたのだろう。

「そんな悲しいこと言うなよ」

 
 ヨハンは泣きそうな声だった。理由も分かる。分かるからこそオレは何にも言えない。沈黙を守り、次の言葉を待つしかできないのだ。
 時計の秒針が進む音がやけに耳に残る。

「大丈夫、なんて無責任なことは言えないし分からない。十代の言うように、生まれ変わってもお前の事なんてすっかり忘れてると思う」

 自分で言った言葉に胸がえぐられる。

「でも、俺は。ヨハン・アンデルセンという一人の人間は、何百年たとうがお前の事を愛している」

 そこでオレを離し、ヨハンは立ち上がり、寝室から出て行った。
 その瞬間に、涙があふれた。今なら、ユベルの気持ちが分かる。ずっとずっと好きで愛していて永遠の愛を誓っていたのに、いざオレと出会うと前世の事なんか綺麗さっぱり忘れてしまっている。ユベルの愛を、前世のつながりを拒絶した。きっとユベルは途方もない程の虚無と寂しさと絶望を味わったに違いない。
 オレはあの王子じゃない。共感はできても王子ではない。だから、例えヨハンが前世の記憶を思い出したとしても、オレとまた一緒にいてくれるとは限らないのだ。

「でも、」

 嬉しかった。生まれ変わりではなく、来世とかは一切関係なく、ヨハン・アンデルセンとして死ぬまで、いや死んでからも愛していると言ってくれた。

「泣くな、十代」

 いつの間に戻って来ていたのだろう。ヨハンの前では絶対に見せたくなかった泣き顔を見せてしまった。赤い袖で涙を拭う。

「な、泣いてねえよ!」

 強がってみるも、ヨハンはくすくすと笑っていた。恥ずかしくなって顔に熱が集中する。

「忙しい奴」
「う、うるさい!!」

 ヨハンのせいだ、ばか。
 ふいとそっぽを向くと、ふわりと花の香りが漂ってきた。

「バラ……?」

 ヨハンの方に向き直ると、大量の花束を差し出していた。紅色のバラの花束に隠れてヨハンの表情を窺う事は出来ない。
 でも、きっと真顔何だろう。こういうことをさらっとやる様な奴だから。

「そう、96本のバラの花束だ」

 握りつぶしてしまわないように、そっと受け取った。
 それにしても、数に何か意味があるのだろうか。首を捻りながら何度も瞬きをしていると、ヨハンが説明をしてくれた。

「紅色のバラは死ぬほど愛しているって意味で、」

 花束とは別に目の前に差し出されたのは、丸い形をしたキーホルダー。こっちにもバラが入っている。その数は3。恐らく花束に用いたバラをドライフラワーにしたのだろう。ヨハンは手先が器用だから、きっとこれも手作りに違いない。

「さて、十代に問題です。96に3を足してみてください」

 どこか得意気にいうヨハンは小学校の先生のようだ。黒板を背にして、眼鏡を掛けて子どもを相手に授業しているヨハンが容易に想像できた。

「簡単だろ。99だ」

 正解と言わんばかりにそのキーホルダーをオレの手のひらに落とした。右手には96本ものバラ。左手にはヨハンの温度が残っているキーホルダー。きゅっと握りしめる。
 部屋はバラの香りで満ちていたが、それを不快とは思わなかった。

「99本のバラはな、お前を永遠に愛するって意味になるんだ」

 きょとんとしたオレとは正反対に、ヨハンはイタズラが成功した子どもの様に笑っていた。

「俺はこのバラに誓ってお前を愛し続ける。ハッピーバースディ、十代。生まれてきてくれて、ありがとう」




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