GX
□パンと王様
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「腹が減った」
目の前の小さな大魔王様はそう仰った。
「そう言われてもなぁ……」
生憎冷蔵庫は空っぽ、カバンの中にパンが入ってはいるが、こんなものでは納得しないだろう。“王”と言っているのだから相当舌は肥えてそうだ。フランス料理のフルコースとか、そういうのでないと、また剣が飛んできそうだ。
「今、このパンくらいしかないけど」
しかも、俺の朝ごはん。渋々取り出したそれに対し、目の前の覇王は一瞥をくれ
「いらん」
と、簡潔に拒否をした。今日食べる予定だったのはクリームパンだ。帰るときに慌てたせいか、袋にトロリとした黄色いクリームがついていた。
「これ以外に、今何もないぞ?」
「厨房に連れて行け」
「は?」
厨房って、台所だよな? うちのはそんな大げさなものじゃないんだけど。
怪訝な顔をしていたら大層機嫌を悪くしたらしい覇王が再び「厨房だ」と語尾を強くして言った。
「連れて行ってもいいけどさ。多分お前が考えてる厨房とは違うぞ?」
恐らくこいつが思い描いている厨房とは、馬鹿でかい調理場に大勢の料理人が忙しなく動いていて、常に食料が山のようにある場所だろう。
そんなものは一般家庭にはない。しかも、両親は常に不在だから必要最低限の物しか買わないし置いていない。食材も今日の内に買いにいかないと昼ご飯が作れないのだ。
「構わん。連れて行け」
まぁ、いいか。連れて行って満足するなら、それで。
このまま放っておいたら何をされるかわからない。なら、要求を呑むのが最善だろう。
分かった、と言うと不満そうにそっぽを向いた。
……本当、こいつよくわかんねぇ。
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